ファンフィクによる物語出版の再構築 (♥)

doracula5月に Kindle Worlds が静かに始動した時、ファン・フィクション的側面がクローズアップされたが、簡単には腑に落ちない面も残った。通常のライセンス・ビジネス的性格が強く、草の根的なコミュニティのためのプラットフォームを書いていたからだ。第2弾で発表された World は、完全にライセンスビジネスだった。これはKWが最初から2層構造で構想されていたことを意味している。やや分かりにくい点だが、新しいビジネスモデルなので解説を試みる。[全文=会員]

二層構造を持つKindle Worldsの深謀遠慮

ファンフィクション(FF)は、有名な作品世界(枠組)を借りて(本来は)ファンが勝手に書いていくもの。ライセンスされた商業作品ならば、厳密にはFFではなく、合法的二次著作物になる。これは新しいことではなく、例えば歌舞伎で「世界」という言葉を使ってドラマの世界構造を標準化しているように、近代的な版権制度が確立する以前にはストーリー・テリングの常道だった。歌舞伎の「曽我」狂言は500本以上も生まれたという。しかし、昔話やお伽話に起源を持つこのジャンルは、版権制度によってかなり複雑な展開をたどってきた。かなり広大なグレー・ゾーンが生まれたということでもある。ブラム・ストーカー流の『ドラキュラ』は、再生産され続けてきた。グレー作品が成功によって白くなった例もある。

Kindle_WorldsKWは自主出版プログラムのKDPで始まったので、一般の自主出版者に対してファンフィクの合法的出版の機会を提供するものとして紹介された。版権の関係で商業利用が制限されている作品の二次利用に道を開くということだ。そのための応募要項と Self-Service Submission Platformという環境が提供された。しかし、少なからぬ疑問が残った。FFのベースになるような人気作品で、しかもアマゾンが権利取得可能なものがどのくらいあるかということだ。作家もファンもFFににうんざりするかもしれない。ひとつのWorldで失敗が出れば、ほかの World にも影響は免れないかもしれない。どれだけの作家(著作権者)が参加するだろうか。FF的な要素と、通常のライセンス・ビジネスとのハイブリッドであり、むしろ実装とオペレーションは複雑になる。

Wattpad-280x150もう一つ、Wattpadに代表される現代のFFプラットフォームは、ソーシャル・ネットワーキングによるコミュニティによって支えられている。アマゾンのKWのフレームワークにはそれが欠けているのだ。この点は、PublishingPerspectivesで、電子出版コンサルタントのアンナ・フォン・ヴェー氏(Anna von Veh)が指摘している通りだ。アマゾンはソーシャル・リーディング・サイトの最大手 Good Reads を買収しており、常識的にはこれらの資産を組合せるはずであるが、それは発表の中には含まれていない。応募する側にとっては失望する要素かも知れない。それにターゲットとなるフォーマットがE-Bookだけでは、たとえ印税が35%でも、書店に並ぶものを出したい多くの作家には無条件で魅力的なものではない。

FF的物語世界の開放

220px-Weird_Tales_March_1944アマゾンが第2弾以降のシリーズをノーマルなものとして出してきたことで、最初のシリーズにおけるファンフィク(的要素)が、一種の打ち上げキャンペーンないし煙幕であった可能性が出てきた。そう考える人もいる。アマゾンは石橋を叩いて渡る慎重な会社だから、その可能性はもちろんあるだろうが、筆者はそう考えない。おそらく2割程度のプロポーションで、2つのラインを維持すると思われる。またWattpadなどのFFプラットフォームを買収する可能性もある。尽きることのないFFこそ物語の王道であり、出版を21世紀のビジネスにするためには、FFの世界を開放する必要があるからだ。

FFで上質なものが出てくるには、レベルの高いコミュニティを背景にしなくてはあり得ないだろう。例えば、H.P.ラヴクラフトを中心とした作家のコミュニティによって創作された『クトゥルフ神話』のように。FF的なものではなく、本格的な二次作品のプラットフォームとして第2弾が登場したことは、KWが当面手堅いライセンスビジネスを主体に展開されることを意味する。(左は「神話体系」のベースになったパルプマガジン『ウィアード・テールズ』の表紙)

ファンフィクという言葉に惑わされた人は、自主出版のための道具の一つと考えたかもしれないが、筆者はこれが、KDPではないアマゾン出版の独自プラットフォームであると読んだ。

  1. TVや映画、ゲームを含めたシリーズ化を意識している
  2. プロの作家が原作者の協力のもとに書いていけば、さらに大きなビジネスとなる
  3. 原作者から価値の高い作品の二次著作権を得る手段となる

など、理由はいくらも考えられるからだ。それでもFFを前面に押し出したのは、それ自体により大きな可能性があり、それだけに時間をかけてアプローチするつもりだからだろう。(鎌田、06/27/2013)

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