アマゾン出版がついにコミック・ブランド立上げ(♥)

jet-city-comics-150x135アマゾン出版は7月9日、コミックとグラフィック・ノベル(マンガ/劇画)に特化した、通算12番目の新ブランド、Jet City Comics (JCC)を新たにスタートさせた。Publishers Weekly によれば、年内にニール・スティーヴンソン、ジョージ・R.R.マーティンなどの新作がリリースされるという。この分野の老舗、DCとマーヴェルのような超ビッグ・ネームはないが、人気作家の1ドル・シリーズものをカバーし、デジタルはKindleストアで独占発売すると見られる。[全文=会員]

12番目のブランドはビジュアル志向

JCCを率いるのはアレックス・カー氏。最近までアマゾンのコンテンツ発掘担当エディターを務め、グラフィック・ノベルの書評などでも知られている。アマゾン出版のジェフ・ベル副社長は、「コミックとグラフィック・ノベルの分野は、とりわけデジタル・フォーマットでユニークなイノベーションを可能にします。私たちは、すばらしい本をこのメディアに適応させ、ビジュアルと語りを結びつける新しいアイデアで表現の可能性を拡大し、読者の皆様に説得力のある新しい体験を創造することで、作家のオーディエンスを拡大する手段を提供することを目指しています」と述べている。読者とは言わず、視聴者を含めたオーディエンスを使っていることに注意したい。

201307091024-300x462Kindle Singles、47North、AmazonCrossing、AmazonEncore、Montlake Romance、Thomas & Mercer、Little A、Day One、Two Lions、Skyscape、Kindle Worlds…。アマゾンの出版ブランドは、個別ジャンルに加えて、サイズ (Singles)、翻訳 (Crossing)、復刊 (Encore)、新人 (Day One)、ファンフィク (Worlds)など、視点を変えたカテゴリに基づいたものがある。これらが精密な全体設計の下でなされている点が、アマゾンの特徴と言えるだろう。ジャンルとカテゴリは細分化することで、ブランド別のパフォーマンス管理を細分化する効果があるが、それに止まらず、作家/作品の価値を最大化するのが目的だ。これには時間がかかり、長い時間軸を導入した、マルチカテゴリ(例えば、新人+劇画+TVシリーズ)でのプロセス管理が必要となる。

現在のところまだ大出版社としての規模ではないが、徐々に大規模化し、少なくとも数千人規模となる可能性が強い。これまで大出版社は、主として流通において優越的な地位を占めるために合併を通じて大規模化してきた。それに対してアマゾンは、デジタル時代の出版社をゼロからデザインし、次々と構築・運用させており、そのベースには、従来のメディア区分に制約されない統一的なビジネスモデルがある。コミック・ブランドにしても、最終的にはキャラクター商品の通販にまで及ぶことを考えれば、途方もないスケールを持っている。

21世紀型デジタル出版の構成部品としてのブランド

51IxSOrt1RL._AA200_アマゾンがコミックに進出した理由は、ジャンル・フィクションを展開している他のブランドとまったく同じだろう。デジタル時代の最大の課題である「見つかりやすさ」を解決するには、同じ読者コミュニティに「次に読むもの」を絶やさずに提供し続けることが基本となるからだ。他のブランドと同じように、コミックでも熟練した編集チームと知名度の高い作家を揃え、クォリティ・イメージを確立する。ここまでは通常の出版社と同じだが、出版プロジェクト(単体/シリーズ)のプロセス管理は、プラットフォームにサポートされ、販売も含めて“カイゼン”サイクルが働く。同時に、最初からより大きなビジネスモデルの中でコンテンツの価値を最大化する。これがアマゾンの違いだ。

JCCはコミックというジャンル横断的なフォーマットなので、すでにアマゾンが立ち上げているフィクションやシングル、自主出版などとの連携(コミック化/ノヴェライズ)はもとより、映像製作スタジオ (Amazon Studios) を使ってのTV番組製作なども考えられているのだろう。先に“ファンフィクション・プラットフォーム”として発表された Kindle Worlds もその一つだ。JCCの刊行予定にヒュー・ハウィ (Hugh Howey)の 'Wool' 劇画版も含まれているが、彼はWorldにも参加を表明している。WoolシリーズはアマゾンKDPで出版、映画化権は21世紀フォックスに、“製本化”と書店への配給はサイモン&シュスターと契約している。おそらくアマゾンは、専属チームを用意して、可能な限り多くの版権契約に関わりたいところだろう。

1970-80年代、日本の角川春樹氏は、映画から本、本から映画をヒットさせる革新的なメディアミックス手法をヒットさせた。「本を堕落させた」として(現在から見れば的外れの)非難を浴び、出版事業的にもハイリスクな手法は葬られた。映像との関係では、本はマスマーケット商品として弱いと考えられており、ハイリスク/ハイリターンの映画をメインに考えるのが常識的だ。アマゾンはメディア・プロデューサーとして、本の「世界」のすべてを、本を起点にしてコーディネイトさせるという野心的な課題に挑戦している。角川春樹氏のカリスマではなく、ビッグデータを駆使する工学的手法で。(鎌田、07/11/2013)

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