お忍びで書いたミステリがベストセラーに

the-cuckoos-calling『ハリー・ポッター』のJ.K.ローリングという作家は、新しい創作的冒険に乗り出しているようだ。'Casual Vacancy'を成功させた彼女が、「ロバート・ガルブレイス」名義で 'The Cuckoo’s Calling' という本格ミステリを出版していたことがサンデー・タイムズ紙にスクープされると、瞬く間に米、英でE-Bookベストセラーのトップに躍り出た。絵に描いたような展開だが、見事に見破った文芸ジャーナリズムの質の高さを評価すべきだろう。

英国の文芸ジャーナリズムは健在

4月にアシェット傘下のリトル・ブラウンから刊行された同書が、7月までの3ヵ月間に売れた部数は、英国で1,500部、米国で1.800部。新人らしからぬ確かで洗練された筆致に注目したタイムズ紙の文芸欄編集者が、「軍警察の退役捜査官」を名乗るガルブレイスが擬装ではないかと疑い、まずエージェントと出版社の組合せ('Casual Vacancy'と同じ)に注目。さらにコンピュータによる文体解析の専門家の協力を得て、『ハリー・ポッターと死の秘宝』の作者と同定した。さすがに英国の文芸ジャーナリストは質が高い。ローリング氏は「もうすこし秘密にしておきたかった」と述べている。

jprowling-articleInlineところで、ベストセラーになった『カッコウ』だが、無限にダウンロード可能なE-Bookと違って、印刷版は供給が追い付かず品薄が続いている。現在の流通部数は1万部で、eBayでは2,000ドル近い値で売られている状態。米国アシェットは今週から30万部の生産体制を組み、英国のリトルブラウンも14万部。マーケティング的にもかなり大掛かりな実験となりそうだ。なお「ロバートはシリーズを書き続けるつもりです」と著者は約束している。これも計算されている。

『ハリー・ポッター』の女性作家のミステリと見られることを嫌った著者は、出版社にも明かさず(真偽不明)無名の新人として出版した。一般読者の多くはスルーしたが、ゲートキーパーである有力紙の書評者は高く評価し、そして裏があると疑ったジャーナリストが著者の仕掛けた謎を解明。スクープと同時に印刷版は売切れ、初版はコレクターズ・アイテムになり、E-Bookの売上は際限なく伸び続けるということになった。渋い本格ミステリとしては大ヒット間違いなし。デジタルは著者を自由にした。無名作家も超有名作家も、それぞれの冒険を夢見る時代だ。(鎌田、07/18/2013)

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