「偉大なジャーナリズム」の復興は可能か? (♥)

Perezアマゾン出版は7月25日、ショートフォームの新シリーズとして Kindle Singles Interview をスタートすることを発表した。世界のリーダーや著名人とのインタビューをシングルの体裁にしたもので、Singles にハイレベルの雑誌が担っていた役割を演じさせようとしているとみられる。最初の1点は、まもなく90歳を迎えるイスラエル大統領のシモン・ペレス氏を取り上げた“The Optimist” ($0.99)。新たな中東和平交渉を前に、様々な意味で話題性の大きい人物を選んでいる。これはNYのベテラン編集者ブラム氏の新しい取り組みだ。 [全文=会員]

 

Playboy Interviewの復興を目指す

時事的なトピックについての大物政治家とのロング・インタビューは、日刊紙や雑誌の領域であり、書籍出版とは結びつかなかった。しかし、紙面に制約がある数時間に及ぶインタビューの書きおこしは編集上のカットや要約が避けられず、記録性においてかなり落ちる。今回のインタビュー(聞き手は David Samuels)は7月21日に約2時間にわたって収録され、40ページあまりに仕上げられている。中3日という製作日数からみて、ほぼ書きおこしに近いものと思われる。こうした出版スタイルは、新聞や雑誌(放送)にも大きな影響を与えるだろう。

Perez2ポーランドに生まれたペレス大統領は、イスラエル建国に参加。首相を2期務め、2007年から現職にある政治家で、パレスチナ和平オスロ合意に向けた交渉での功績が認められ、1994年に(ヤセル・アラファト、イツハク・ラビンとともに)ノーベル平和賞を授与されている。ペレス氏は現代史の証人であり、インタビューでは、師であったベン・グリオン、ドゴール、アラファトからマーク・ザッカーバーグまでが言及されている。

「1962年9月、作家アレックス・ヘイリーとマイルス・デイビスの対話が Playboy Interview を立上げ、白熱した対話を長文で記事化する形式のパイオニアとなりましたが、私たちはその伝統を継承し、制約のないデジタル空間を使い、偉大なアーチストや思想家たちと練達のライターや聞き手の対話を出版していきたいと考えています」とKindle Singles のデイビッド・ブラム編集長 (David Blum)は述べている。温故知新というが、 Playboy Interview を称揚していることは重要だ。

社会的矛盾を創造へのエネルギーとした黄金時代のジャーナリズム

Jobs_PlayboyPlayboy Interview は(ピンナップ、フィクションとともに)Playboy誌の看板シリーズだったもので。マーチン・ルーサー・キングやジョン・レノンなど、今日では歴史となった人物の肉声を伝えている。まさにそれは本来の意味で「センセーション」であり、それ自体がニュースだった。Playboyは、ハイブローなインタビューとフィクションで名を高めたが、そのスタイルは20世紀の後半のアメリカの雑誌ジャーナリズムの頂点を極めたものと言えるだろう。

Milesしかし、そうしたライフスタイル誌の黄金時代は終わった。理由は一つではないが、ヌードから戦争までを同じ「ライフスタイル」に渾然一体とさせた、1960-70年代的の“リベラル”な雰囲気は、今日の商業主義の許容するところではなくなった。センセーションは雑誌の命だが、テロリズムや貧困など、社会を分裂させるようなテーマを扱えば、広告主を失うリスクが大きくなる。そうしたテーマはますます増加し、社会の紐帯を確認できる理想は弱まる一方で、企画は安全に流れる。ピンナップはもはや雑誌の枠に納める意味を失っている。テレビも同じだが、商業メディアとしての雑誌の市場基盤は弱まる一方だ。

pb-miles雑誌ジャーナリズムの栄光と没落を見てきたブラム編集長が Playboy Interview を理想とする、と言った時、それはデジタルによって20世紀の偉大なアナログの遺産を蘇らせたいと表明したものだ。ライフスタイル雑誌は社会的矛盾を原動力にして成立した偉大なメディアだった。彼の Kindle Singles 構想は、まさに黄金時代の雑誌の再現である。これで編集者とライターが食っていけるようになったとして、もしかすると、次の段階はジャーナリスティックなショート・コンテンツをパッケージした「Kindle雑誌」なのかもしれない。筆者は、雑誌メディアのサバイバルという点では、ハフ・ポストのようなファストフード・メディアではなく、重厚な本格ジャーナリズムを土台とするモジュール型のものが主流となると考えている。定期購読に依存せず、編集者、ライターの職業的、経済的独立性を保ちつつ、広告とも緩やかなネットワークを持つことができるからである。  (鎌田、07/29/2013)

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