1Q13の謎:デジタルは25%で飽和か?

plateau1米国出版社協会(AAP)が発表した1Qの数字、とりわけE-Bookが前年同期比5%増に止まったという「事実」は少なからぬ波紋を生んだ。デジタル比率は25%に達したのだが、このあたりで「打ち止め」と考えた(い)人々が、限界説を流し、それに対する反論も積み上がってきた。真実はいずれ別のデータで明らかにされるので、そう深刻な問題ではないが、デジタルというものに対する認識、投資戦略にも影響を与えることなので、本誌の考えを述べておきたい。

デジタル市場は姿を変える

重要なことは唯一点、AAPの発表はあくまでAAPの数字であって、米国の出版業のすべてではないということだ。AAPの数字は、会員企業が任意で提出した紙とデジタルの販売データに基づいている。今回の場合は 1,192社分である。数年前には400社あまりだったのでずいぶんと捕捉率は多くなったが、それでも業界全体の70%なのか、90%に近いのかは推計によるしかない。大手・中堅出版社の活動はヒットに左右される。90日という数字ではヒットの有無で影響が大きいのは当然だろう。

ebooksalesgrowth1それ以上に重要なことは、この1年の市場の変化の最大の要素である「自主出版」がカウントされないことだ。自主出版が出版市場の数パーセントを占めることは別のデータから窺うことが出来るし、ベストセラー・ランキングで見ても、「出版社」として4-5位にも位置する。大部分が100部単位となるロングテールのE-Book。アマゾンなどAAPのシステムにはカウントされないルートで販売されているカテゴリの登場は、「業界統計」としてのAAPデータの価値を制約するものであろう。結局、1,192社は1,192社。伝統的にそれが出版産業の「大部分」を代表し、それが一定であった時代には十分であったが、デジタルが(1,192社において)25%となってみれば、別の観測で補正される必要が出てきたということだ。

仮に1,000社あまりに話を限定してさえ、季節要因は大きい。メガヒット『ハンガー・ゲームズ』の影響が及ばない成年向けフィクションの分野の、3年間の1Qのデジタル比率をみれば、23% (2011)、28% (2012)、33% (2013)と5ポイントづつ積み上がっていることが分かる。成年向けフィクションでは市場の拡大にもかかわらず、成長率が鈍化する兆しを見せていない。カテゴリごとの市場の変動は大きいし、ノン・フィクションや実用書のように、デジタルが平均的にまだ10%すら超えていない分野もある。デジタルはまだ底(あるいは天井)を見せていないのだ。

plateau2市場の成長・変化とともに、観測システムが示すデータと現実との乖離が拡大するのは当然なことだ。しかも関係者は「現実」を様々な期待や不安を持って見ているので、無意識に用意されていた結論につなげてしまう。結局、デジタル飽和論は、主観的判断の一例ということになる。ところで、話が「5%」に集中して見落とされたようなのだが、1Q13では、成年向けフィクションにおいてE-Bookが、ハードカバー (22%)、ペーパーバック (30%)を抜いて、33%とトップに立ったことを強調しておくべきだろう。この分野では中心的なフォーマットということだ。つまり、部数、金額、利益率ともに出版プロジェクトの成否を握る存在なのであり、そのことから目を背けるようでは出版ビジネスは成り立たないのだ。 (鎌田、08/22/2013)

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