アマゾンに挑戦する異色の経営者パトリック・バーン (♥)

Pat_Byrne前号で紹介した米国オーバーストック社(OSTK)は8月1日、印刷本の「アマゾン価格より10%割引」をさらに1週間延長すると発表したが、翌日のPublishers Weeklyは、アマゾンを“悪の帝国”と呼ぶ、同社のバーンCEOとの電話インタビューを伝えた。独立系書店を含めた新しい構想を語るなど、書籍販売を戦略的に重視していく意思を表明している。スターウォーズ・フリークのバーン氏は、エキセントリックで天才肌の経営者として知られるが、これは思いつきか、それともベゾスとは別の視点から本の“秘密”を読み解いたのか。[全文=会員]

よい顧客は本を読む→本は金の玉子を生むニワトリ!?

websweb_servicesallmerchantsoverstock_com1-resized2001オーバーストック(以下O社)は、ユタ州の州都ソルトレイクシティ近郊に本社を置くオンライン通販企業で、パトリック・バーンCEOによって1999年に創業された。その名の通り「過剰」在庫品を通常の卸値以下で仕入れ、販売することを基本的なビジネスモデルとしている。家具、衣料品、宝石、家庭用品などを得意とし、年商12億ドルほど。これまで書籍の扱いは小さく(数100万ドル)だが「弊社の顧客には読書家が多く、増えている」という。本は他の商品の呼び水として位置づけられている。

この夏のキャンペーン商品の目玉に本を選んだのは、小額商品のディスカウントは、高額商品の販売に誘導するのに効果的であるという、小売業では比較的よく知られたアイデアによるものであることは明らかだろう。しかし、ウォルマートなどの大手小売チェーンの場合は、店舗への集客効果が高いベストセラー書籍がほとんどで、アマゾンやB&Nと比べて価格差もそれほどないので、効果はさほど大きくはない。O社が「売れ筋の」36万点を揃えたのは、「ベストセラー以外も含むバーゲン」で強いインパクトを与え、同時に出版社が過剰在庫整理のために同社を積極的に利用することを期待してのものだ。出版界は初めてこの会社に注目した。

golden eggバーンCEOは、アマゾンによる供給独占ならぬ需要独占(monopsony)とたたかうために、O社のサイトが独立系書店の注文窓口となるというアイデアを示している。消費者はO社のサイトで紙の本を注文し、近くの書店から受け取ることが出来る。コンビニと提携したアマゾン・ロッカーと同じ仕組みだ。E-Bookについては、2014年1月(早ければ年内)に立上げる予定。2011年にB&N/Nookとの提携を試みたものの実らなかった経緯があるが、これはサイトを移動しなければならず、メリットが少なかったためだ。デバイス市場には参入しないが、引続きNookとKindleを扱うという。もしかするとDRMを外すことを考えているのかも知れない。

今年51歳のバーン氏は、かなり興味深い経歴の持ち主だ。保険業界で辣腕をふるった大物経営者、ジョン・バーンの息子で、何かにつけ『スターウォーズ』を引用するフリーク。今年1月にソルトレイクシティ空港で拳銃(実弾装填でケース入り)を機内に持ち込もうとして逮捕されたことで知られるように、奇人に近い。ダートマス大学を卒業(中国研究)。ケンブリッジ大学(マーシャル奨学生)で数学論理、スタンフォード大学から哲学の博士号を取得。老子『道徳経』を英訳出版したほど東洋思想に通暁している一方、教育改革のためのフリードマン財団の理事長も務める。

独立系書店と協業する独自のビジネスモデル提案へ

Bezos_Amazon豊かな資産と高度な知能に恵まれ、どうやら同年代のジェフ・ベゾス氏を“シス卿”と目している彼は、B&Nやアップルが力を失って以後のアマゾンへの対抗勢力の台風の目になる可能性がある。例えばNookの買収のようなこともやってしまうかもしれない。印刷本の在庫整理を、出版社や独立系書店と連携して機動的に行うアイデアも実現性はあるだろう。

O社の構想の全体像はまだ明らかではないが、おそらく以下の戦略を考えていると思われる。

  • 直接的価値をはるかに超える(出版社が見ていない)本の潜在力を引き出す
  • 顧客にフォーカスし、印刷本とE-Bookを入手しやすい形態と価格で提供する
  • 本の消費者に最大の便宜を図ることで「最良の顧客」を安定的に確保する

基本はアマゾンと同様だが、独自のフルフィルメント・センター確保の代わりに

  • オンライン(仕入/顧客注文)とオフライン(対面販売/手渡し)のエコシステムを構築

することで対抗しようというものだろう。書店を活かそうとする点ではKoboとも似ているが、Kobo自体はE-Book(あるいはメディア)ビジネスに集中しているのに対して、O社は本を「金の玉子」というよりはニワトリと考えている。書店とのシナジーはE-Bookだけでなく紙の本にも及ぶので、プラットフォーム(流通/データ基盤)を共用する、効果的な協業モデルが提供出来れば、アマゾンに対抗できる可能性がある。

本誌がかねて強調しているように、大多数の(消費者=顧客=)読者が求めているのは「本」であってデジタルや紙の本ではない。フォーマットやデバイスの選択を提供できないとしたら、それだけで販売機会の半分以上を逃がしている。「オーバーストック」が強味としたいのは紙の本の価格競争力だが、それはE-Bookや書店との協業が加わることで強力なビジネスモデルとして機能する。同様なアプローチは(取次がその気になれば)日本でも可能であることを付記しておきたい。パルプに還元する以前にやるべきこと(市場価格での在庫処分)をやることが、ビジネスモデル再構築の第一歩だ。(鎌田、08/08/2013)

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