「カート・ヴォネガット」の世界は成立するか(♥)

Kurt-Vonnegutアマゾン出版は8月16日、米国の作家カート・ヴォネガット (1922-2007)の作品をもとに Kindle Worlds の自主出版プラットフォームを使ってファンフィクションを出版することを可能にするライセンス契約をロゼッタブックス (RosettaBooks)から取得したことを発表した。先月立ち上げたばかりの Kindle Worlds には1ダースほどの「世界」が開設されているが、米国文学を代表する作家の一人に「世界」が創られたのは初めてのこと。当然にも大きな波紋が…。[全文=会員]

「ナイス、ナイス、ヴェリ・ナイス??」

公認の「まがいもの」によって原作者の名(人格)を汚すのではないか、という心配は当然として。別の心配は、「不快表現」を使わないこと、という指針を厳密に守っていたら、そもそもヴォネガットの世界にならない、とマシュー・カーンは指摘している。“F*CK”はもちろん、「けつの穴」のイラストもよく出てくるし、主人公はよく自殺する。ナチの宣伝員まで登場する。「不快表現」はヴォネガットの世界には欠かせない。それは不快な現実世界を描いているからだ。

物語において「世界」を設定していく方法はポピュラーなものだが、『ヴァンパイア・ダイアリーズ』『プリティ・リトル・ライアーズ』の連続ドラマの世界ではなく、「カート・ヴォネガット」の世界となると、疑問符が5つくらい浮かんでくる。この小説家、劇作家、随筆家は、分かりやすい虚構の「世界」を仮構し、読者と共有し、そこで迫力ある物語を展開していくということはしていない。彼は現実に体験した不条理世界を理解可能にするものとして独特の「世界」を描いていると思われるからだ。機械、化学、人類学などを学んだが、それも世界を知るためだったのだろう。SF作家としてデビューし、独自の仕掛け、スタイルを開発しているが、彼以外に使いこなせる人間がいるかどうか。

Kindle-Worlds-300x213ようするに、「カート・ヴォネガット」は世界を理解するための装置であって、そこでスリルを味わったりするものとして商品価値を持つとは思えないのだ。おそらくヴォネガットの版権管理者 (Kurt Vonnegut Trust)も、アマゾン出版も、そんなことは百も承知だったに違いない。『猫のゆりかこ』に出てくる、ポコノン教の聖書にあるように「ナイス、ナイス、ヴェリ・ナイス」ということだ。ことによると、確かに凄い作品が生まれるかもしれない。『ヴァンパイア・ダイアリーズ』の世界は、誰が書いても、それを続けることしかできない。しかし「カート・ヴォネガット」は、現実世界を知る(再創造する)ために使うことが出来る。そんなことができるかどうか、見てみよう。彼の作品の愛好者、共感者なら、そう恥ずかしいものは書かないような気がする。

エージェント、マネージャーで、生涯の友人であったドナルド・ファーバー氏は、次のように超楽観的なコメントを述べている。
「Kindle Worlds によって、私たちは彼の作品が今日の読者と結びつく、一つの機会を得ることが出来ます。これは根強い人気を持つ作中人物や物語として遺された彼の遺産と遺言の自然な拡張です。ビリー・ピルグリム(『スローターハウス5』の主人公)は時を超え、すぐにKindle Worlds の人気者になるでしょう」

なお、ファーバー氏の考え方は、インタビュー記事「カートは世界の一部だった」を読むと理解することが出来る。(鎌田、08/22/2013)

参考記事

 

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