Kindle MatchBook の投じた波紋 (♥)

love_match紙とデジタルをバンドルした Kindle MatchBook は、今後の出版市場の展開に少なからぬ影響を及ぼすことは間違いない。その規模と速度は、出版社の対応にかかっている。Publishers Weekly (PW)の9月6日付記事は、10月の立上げを前にした出版社の参加意思を取材している。大ざっぱに言って「ノー」に集約されるが、その中身はかなり複雑だ。 [全文=会員。9月中は一般公開]

出版業界の反応は計算済み

Matchbook前号でご紹介したように、大手ではハーパーコリンズのみ、既刊本の一部を対象とした限定的参加に止まる。アマゾンは他社の対応について何の情報も出していないが、大手出版社の反応は計算されているだろう。「バンドル構想」は出版社においても検討対象となってきた。PWは、現在アシェットにいるエヴァン・シュニットマン氏がブルームズベリー社に在籍した当時に考えた「拡張ハードカバー」というアイデアを伝えている。ハードカバー価格に25%あまり追加することでE-Book版を提供しようというものだ。MatchBook に近いようにも見えるが、出版社が主体になるか、ストアが主体になるかで性格は一変するだろう。しかも、後者はアマゾンの創業時点にまでさかのぼって行われる。

大手出版社はすべて MatchBook への参加について態度を表明していない。出版関係者の中には、3ドル以下という価格がE-Bookの商品価値をさらに毀損し、まるで「おまけ」のように提供されることに当惑している人もいる。版権エージェンシー Trident Media Group のロバート・ゴットリーブ会長は、現行の出版契約で出版社にこうしたプログラムに参加する権利が認められるかどうかについて疑念を表明し、さらにバンドリングによって出版社の側に印刷版を維持する動機が薄れることを懸念する。これは取り越し苦労のようにも思えるが、それを心配するのがエージェントの仕事た。

消費者を味方に、業界にはさらなるプレッシャー?

しかし、ほぼ間違いないことは、(1) バンドリングがハードカバー版購入者にデジタル版購入の動機を与えることで、ハードカバーの価値を高めること、そして (2) それ以外ではほとんど存在しなかった需要が新たに生まれ、さらに (3) 大手出版社の不参加でアマゾン出版の価値は相対的に高まる、ことだ。では、E-Bookの価値は下がるだろうか。オライリーでTOCを立ち上げたジョー・ワイカート氏も懸念を表明している (Digital Content Strategies, 9/9)。しかし、コンテンツの価値は高まる。それで悪いことはない。アマゾンの優位がさらに強まることを嫌う人にとっては別だが。

F451_Bradbury大半の消費者は、このマーケティング・プログラムに賛成するだろう。過去の購入歴から、3ドル以下で入手できるE-BookのリストがDMで送られてきて嫌な気はしない。無償または3ドル以下でE-Book版が入手できれば、捨てたくはないが置いておけない事情がある本を整理することが出来るし、デジタルでも読みたい本を入手しやすくなる。そうした需要が少なくないことを、アマゾンは把握している。また、すでにオーディオブックとE-Bookについてはバンドリングを行っている。(右の写真はレイ・ブラッドベリー『華氏451』初版表紙)

しかし、E-Bookだけを販売するストアにとっては不利になるだろう。例えばKoboが同じプログラムを行うには、独立系書店のネットワークと連携する必要があるが、ユーザーの購入履歴を一括して管理しているアマゾンと同じようなことは出来ない。逆にリアル書店には、バンドル・プログラムのプレッシャーがかかるだろう。紙の本の販売において、バンドルの有無で競争になる可能性が高いからだ。とくに、バンドルに期待する消費者は、あらゆる書店にとっての「優良顧客」であり、さらにアマゾンへの集中につながるだろう。結局、この会社のやることはすべて創業時に構想された巨大なビジネスモデルに含まれており、現在までに築き上げてきたものを土台にしている。他とはスケールが違いすぎるのが問題なのだ。(鎌田、09/12/2013)

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