読書大国ロシアは未来の出版大国になるか

russia_2small-280x150ロシアのE-Book出版社で組織するオンライン出版社協会は、E-Book市場に関するレポートを発表し、2012年の売上が800万ドルと倍増したことを明らかにした。しかし、額としてはわずかなもので、ロシアの出版市場の1%でしかない。デバイス市場(推定2,000万ドル)と比べてもアンバランスだが、その間にはやはり「違法コピー」が存在する。

正規版5万点、海賊版が10~11万点という現実

russia-ebooks560業界関係者はいずれも、今後数年間の急成長を確信している。デジタル読者の大半はモスクワとサンクトペテルブルグといった大都市住民で、書店の少ない地方部では少ない。オンラインストアとしては、60%のシェアを持つとされる LitRes、20%の iMobilco がある。LitRes のセルゲイ・アヌーリエフ CEOによれば、2015年までに出版市場におけるデジタルのシェアは5%に増加し、9,000万ドルに達するという。とはいっても、国の規模から言っても、デジタル読者の数からいっても、これはみすぼらしい数字だ。

最大手出版社の Eksmo は最近、流通しているE-Bookの95%が違法コピーだとして、1億2,000万ドルあまりの損失を主張した。タイトル数で10~11万点が海賊版として流通しており、これは6万点の正規版の2倍に近い。出版社は違法コピーの摘発を強化し、過去2年間で2万5,000点を摘発し、100あまりのサイトを閉鎖させた。もちろん、正規版の購入促進キャンペーンも行っている。海賊版(ほとんどは非商業的)が正規版を圧倒する現実は、デジタル版を躊躇させるに十分かもしれないが、実際には正規版の不足が海賊を促進しているとも考えられる。出版ビジネスは価格設定の最適化や決済手段の整備、購入(購読)モデルの開発に取り組むべきだろう。(下のビデオは正規版普及キャンペーン)

 

21世紀型のソーシャルなビジネスモデルへ

ロシアは「読書大国」であるが出版(つまり消費)大国ではない。一冊の本が死蔵されず、家族や友人の間で回読されるという習慣は合理性もあるので根強い。商業的出版が制限されていた社会主義、あるいはそれ以前の時代に形成された読書スタイルは容易に変わるものではないだろう。そう考えると、「違法コピー」に「罪悪感」を感じない人が多いロシアを、単純に「後進的」と考えるのは間違っていると思われる。日本でも20世紀前半にまでは、本を廃棄せず、読みたい人に渡すのが当然視されており、それが本と接する作法でもあった。日本で古書店が発達したのも、新書と古書が同じルートで扱われていた江戸時代以来の伝統とも言える。

Crime_and_punishmentもし仮に、そうした時代にE-Bookがが登場したら何が起こったかを考えてみるとよい。人々はE-Bookをよりよいリサイクルの手段と考えるだろう。本を社会的なものと考える人々に、私有財産権に過ぎない著作権の優越を説いても、懲罰で脅しても状況が変わるとは思えない。市場主義を“信奉”する欧米や日本の出版関係者が平気で濫用する「罪悪感」や「恐怖感」は、出版の社会性を否定することになり、ドストエフスキーの国、聖書が最大のベストセラー(?)であるような国では通用すると思えない。(写真左は『罪と罰』ロシア語デジタル版の表紙)

ではどうしたらよいか。20世紀後半の大衆消費時代の「版権」産業全盛時代を経験せずにきた社会が「近代化」するのを待つか。それは不可能だ。何より、米国流のイデオロギーそのものが21世紀のデジタル・ネットワーキング時代の現実に合わないからだ。むしろ、生き残っている19世紀の美風(出版の社会性)をもとに再構築するほうが現実的だと思う。ソーシャル・ライティング/リーディングをベースに置くことで、ロシア社会の現実に合った市場を構築していけば、逆に(中国や新興国でも通用する)世界最先端のビジネスモデルとなる可能性がある。読書大国を出版大国にすることは可能だ。違法コピーで育った読者もりっぱな読者であり、出版社の潜在的顧客であることを忘れてはならないだろう。本は読まれてこそ本であり、ビジネスはそこから出発する。(鎌田、09/18/2013)

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