出版社をオンラインへ誘導するアマゾン (♥)

piedpiperアマゾンのグランディネッティ副社長(Kindle担当)が10月8日、フランクフルトで行った講演については10月12日号で簡単に紹介しておいたが、当日の発表資料が Slide Shareに掲載された。重要なデータも含んでいるので改めて解説してみたい。アマゾンは「オンライン vs. オフライン」という図式を示し、出版社を儲けさせることで、さらにオンラインへと誘導し、そして成功している。 [全文=会員]

オンライン vs. オフラインという図式

「オンライン書籍販売へのグローバルな移行についてのアマゾンの見方」と題された講演は、英語圏に続いて残りの世界市場を開拓しつつあるアマゾンが、主として出版関係者を対象に現状認識を披露したものだ。オンラインが牽引する出版のグローバリゼーションは、21世紀の出版の最も重要な側面といえる。しかしそれは出版社をオンライン(アマゾン依存)へと導く材料だ。

まずグランディネッティ副社長が提示したのは、米国と英国における、印刷本とデジタルを合わせた、過去3年間のオンライン販売シェアの推移 (2010-2012)で。米国が27%→35%→42%、英国が26%→31%→37%というトレンドが、必然性を持ったものとして示される。出版社が最も気にするのはデジタルの比率だが、当然ながらアマゾンはオンラインであるかどうかを重視している。次のスライドはアマゾンの印刷本売上に対するKindle本売上の比率の米英日独の比較だ。いずれもKindleの発売を起点とした年単位で見ているが、100%を超えている米英と比較して、日独でも遜色ないものとなっている。さらにKindleのオーナーはそうでない人より多く本を買うという傾向が強まっていることが示され、アマゾンの販売力と顧客層のポテンシャルが誇示される。また、Kindle版を出すことで紙もデジタルにも効果があった事例(1971年初版、2012年Kindle版)が示される(事例が一つでは説得力に乏しい)。

言いたいことは、オンライン(紙+デジタル)が出版社にとって(印刷本においても)効率的、合理的で「儲かる」選択だということだ。そこでビッグ5出版社の業績報告が引用される。サイモン&シュスターは過去3年間に収益を向上させたが、それはデジタルのおかげ。そして英語のKindle本が非英語圏で販売を大幅に伸ばしている傾向が示される(なぜか単位が外されている)。非英語圏のKindle本の英語圏における販売実績もほぼ同じ傾きで増えている。

競争の主舞台が本屋からネットへ移行した結果…

ここでアマゾンのメッセージ。オンラインによって、とくにデジタルが加わったことによって、本の販売が根本的に変化した。オフラインでは、販売する書店の立地、書棚での見つかりやすさ、他の書籍との比較が問題だったが、オンラインにおいては、(1)本に関心のある顧客をどうやって見つけるか、(2)顧客の選択肢の中で、自分の本についてどの程度知っているか、(3)他のメディアを含めた選択肢の中で魅力はあるかが問題になる、と述べる。オンラインの世界では、本は他の本だけでなく、雑誌、Web、ゲームなど、アクセス可能な(有償無償の)すべてのメディア・コンテンツとの競合になるという点に注意してほしい、というのがこのプレゼンで最も強調されている点だ。

そして出版社に対する警告。早くデジタル化に動かなければ、価格が高すぎれば、オンデマンド印刷(PoD)を使わなければ、コンテンツは販売機会を失う。印刷本ランキングで上位1,000人の著者が1点以上のKindle本を持っている比率を国別で示し、そうした国の出版社は大きな販売機会を失っている、と述べている。日本は64%と98%の米国よりはるかに低いが、各国のアマゾンはこのKindle比率を高めることが要求されているのだろう。世界の出版人が集まるフランクフルトという場所柄もあると思われるが、アマゾンがここで強調しているのは、PoDサービスが持つ仮想在庫機能。事例として出したのは、J.K.ローリングが仮名で出版した "’The Cuckoo's Calling"の7月時点のフォーマット別販売データ。これも実数は入っていないが、非常に興味深い数字だ。最後は、アマゾンの宣伝で、Daily Deal、GoodReads、MatchBookが挙げられている。

期待外れなのは、出版社のマーケティング上のアドバイスが少なく、一般的なこと。タイトルさえ揃えて、後は任せてくれ、という姿勢がまだ強い。出版社にマーケティングのエキスパートが揃っていればこんな対応はとれないだろう。さらに言えば、「オンライン vs. オフライン」という図式はアマゾンのものであって、これを鵜呑みにすべきではないし、その必要もない。オフラインが出版社にとって非効率を意味しない可能性は十分にある。(鎌田、10/24/2013)

Scroll Up