「自主出版ポルノ」規制の波紋 (♥)

sensored英国を発信源に、自主出版の官能小説(エロチカ)に対する大手オンライン・サイトの検閲・販売停止の動きが拡大し、論議が活発化している。性的表現の「過剰」と自主出版批判を短絡させる風潮に、ストア側が過剰反応したことで多くの巻き添えが生まれた。問題の背景には新しい「出版」を評価する基準とシステムの不在があり、たんなる検閲強化では解決しない。[全文=会員]

Kobo UKは自主出版物をリストから一時撤去

アマゾン、B&N、WH Smith、Koboは、「社会の道徳規範に反し、反社会性の強い」ポルノの自主出版物を積極的に販売して利益を得ているという一部メディアの告発を受けて、次々と「問題」コンテンツをサイトのリストから削除した。これらは合法であるが反道徳的と判断されたものだ。しかし、自主出版タイトル販売の全部 (WH Smith)あるいは大部分 (Kobo)の停止 から、エロチカの一斉撤去、検索キーワードを使って検閲した作品の撤去(アマゾン、B&N)などによって、対象コンテンツはかなり広汎に上り、とばっちりは多くの自主出版作品に及び、大きな反発を巻き起こした。

kobo_sensor当然のことながら、性に関する感情は一様ではないし、社会的規範や道徳と言っても明確に定義され、合意されているものは存在しない。境界が引きにくいことで、メディアの批判に恐怖した販売サイトがアマチュア作家の自主出版物だけを対象に「過剰反応に走ったことで問題は拡大している。かつてアップルが『ユリシーズ』を削除して話題になったが、アマゾンは有名作家の「問題」作(例えばナボコフの『ロリータ』)を削除していないのに、自主出版ではより厳格に対応するといった具合。しかし、こうした問題への対処に慣れているアマゾンに比べると、Kobo UK の対応は狼狽とも言えるものだったようだ。

エロチカだけでなく、複数の分野の全タイトルが一斉に消えた。D2Dというディストリビュータが提供する 7,883点が事前事後の通告なく、UKサイトから完全に撤去されたという。しかしUSではいまだ手つかずだ。Kobo UK の場合は、パートナーの WH Smith の措置に対応したものと考えられる。大手書店チェーンの WH Smith は、彼らの顧客の道徳規範に敏感で、トラブルの少なくない自主出版物を一時的に排除しても問題の最小化を図ろうとしたのだろうが、そのことでKoboにもダメージを与えている可能性がある。

非商業「出版」への社会的評価システムの必要性

book-reviewsエロチカが自主出版/E-Bookの有力な商品となり、その中から『フィフティ・シェイズ』三部作という超ベストセラーが生まれて大手出版社(ランダムハウス)を潤したのは記憶に新しい。今年に入って、自主出版の“低俗”さを非難するキャンペーンが、出版界の保守的な部分から提起され、書店関係者やエージェント、一部の作家がメディアに登場し、“反アマゾン”と結びついた議論を展開していた。また英国ではキャメロン政権が「インターネット・ポルノ」規制強化の立法方針を表明している。自主出版攻撃は、組織されたものである可能性が強い。そして対象はポルノだけに止まるものではない。

しかし、明確な基準も示されず、通知さえもないままに「自主出版物」が撤去される事態は、明らかに好ましいものではなく、社会全体にとってもマイナスである。この問題には、

  • 出版へのコスト的、技術的障害がほとんど消失したことによる出版物の氾濫
  • 第三者による評価を経ない「出版」物に対するレビュー・システムの不在
  • オンライン・サイトによる取扱基準、事前審査体制の不在

などの背景がある。活字にしただけで「出版」物として認知されるわけではない。米国で自主出版物が総出版点数の5割を超えるまでになったように、商業出版社の手を経ない出版物を評価し、レイティングする社会的システムを、掲載基準に関するコンセンサスと同様、個々のストアに依存することなく構築していく必要があると思われる。自主出版なくしては出版界はエネルギーを失い、同時にそのエネルギーを制御できないならば「出版」の意味を失う。◆ (鎌田、10/17/2013)

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