アマゾン永続革命と21世紀の出版(2)♥

logo_amazon-150x100アマゾンは最も利幅が薄い小売ビジネスこそ、無限に成長可能な世界であるという事実を出発点としている。永続性に最大の価値を置くので、利益は滞留せず、常に新しい成長機会に対して投資される。重要なことはそのビジネスモデルの出発点に本があるということだ。アマゾンが巨大出版社とならない理由はその原理にある。 [全文=会員]

 焦土戦術もマジノ線もアマゾンには通用しない

daphne-durhamでは、新秩序を目ざしたナポレオン・ベゾスはNYで苦杯を喫し、デジタル出版帝国の野望は潰えたのだろうか。あたかもE-Book市場も失速が伝えられ、ここでも重圧は緩和されたかに見える。デジタル系のブロガーたちはこうした見方に真っ向から反論する。ネイト・ホフェルダー氏 (The Digital Reader, 10/27) は、これが“偽情報”(disinformation) になると警告する。この21世紀に、NYからの撤退(仮にあったとしても)は何の意味も持たない。手の内が読める大物が退き、アマゾンという先端企業で14年を生き抜いたオンライン・リテールのスペシャリストが出版事業全体を仕切ることは、伝統的出版社にとって脅威ではないのかと。筆者もこの見方には賛成だ。

「なんのかんの言っても、アメリカでEブックは売上げ全体の20%を超えるぐらい、つまり8割はまだ紙の本が読まれているのだ。」という大原氏の述懐は、ニューヨークの業界の雰囲気をよく伝えている。もしかすると木馬を残し、海岸から退いたギリシャ軍に対する「勝利」を祝うトロイ人。アマゾンを喜ばせる偽情報!?

Maginot Line本誌で述べたように、アマゾンは「紙かデジタルか」よりも「リアル書店かオンラインか」を重視している。広くあらゆる本を売る側としては当然だ。オンライン売上がすでに40%に達し、その大半がアマゾンである現実、シアトルの出版事業がニッチな分野、非正統的な方法で成功を続けている現実から目を背ければ、NYの書店に並ばなければ出版のビッグゲームに参加できないという現実が永遠のものと見えても無理はない。ポール・マッキントッシュ氏は TeleRead (10/31) で、出版業界の反応を“マジノ線心理”と形容した。重厚長大の20世紀的出版スタイルを固守するニューヨークを難攻不落の城塞・聖域と考えたい心理を、マジノ線によってドイツの脅威を脳裏から消したと言われる当時のフランス人に喩えたものだ。

B&Nの“焦土戦術”は成功しただろうか。チェーン店は縮小を続け、Nookはマイクロソフトによって支えられている状態。著者と読者という出版の主役を押しのけ、「アマゾン憎し」で仕掛けた喧嘩は、大手出版社を喜ばせただけだ。焦土戦術は時間のない相手との戦いには有効だが、攻撃側に時間の余裕がある場合には最初から負けが見えている。同様に、現在でも見ることができるマジノ線はたしかに強力無比だったが、マジノ線を迂回することで無効化したドイツ軍の機動戦略に比すべきアマゾンのネット出版戦略は、基本的な布石をほぼ終えて、着々と展開を進めている。ジャンル出版(SF、ミステリ、恋愛…)で読者を固め、自主出版 (KDP)やファンフィクション (Kindle World)、ショート (Kindle Singles)、映像製作 (Amazon Studios)などで、新しい著者、クリエイターとともに市場を創造し、グローバル展開も怠りない。クラウドではITベンダーを圧してトップ。そして何よりも、コマースとコンテンツを通じた決済、ロジスティクス、会員のプラットフォームを構築している。

アマゾンは巨大出版にならず、旧秩序は自壊を誘導する

それでも、と考える人は多い。「アマゾンは利益を犠牲にした低価格で売上(シェア)拡大を続けているのであり、いつまでも続くはずはない。こんな無謀な拡張戦略が長期間継続した例はない。いつかは、利益重視に転換する」と。ナポレオンもヒトラーも、攻勢を維持できなかった。

1382736441.CROP_.promo-mediumlargeしかし、理解しがたいことだが、アマゾンはこれまで無理・無茶をしたことがない。すべては合理的に割り出された数字に基づいて決定される。低価格も、配送無料、返品自由も、すべて「儲かる(継続可能だ)からやる」のだ。アマゾンに2004年まで在籍したユージン・ワイ氏は、最近のブログ (Salon)で、彼がいた当時でも、利幅は薄くても利益はつねに計画通りに生まれ、すべてが投資に回されていた、と証言している。最近の四半期売上/利益のグラフも、恐ろしいほど正確に同じパターンを繰り返している。

TeleReadのクリス・メドウズはワイ氏の記事から、リアルタイム・ストラテジーゲームさながらの経営が進められてきたと推測している。ジェッフ・ベゾス氏は、最も利幅が薄い小売ビジネスこそ、無限に成長可能な世界であるという事実を出発点とし、また(あらゆる形態の)本という商品がその無限性のアルファでありオメガであることを発見した。ジョブズのように「偉大な」商品には限界があるが、すべての人々を相手とする本と小売には事実上限界がない。

ジョー・ワイカート氏が考えるように、アマゾンが巨大出版となる可能性は、理論上は十分であると思う。しかし、現実にそれを志向する可能性はない。以下がその主な理由である。

jfsfis-growth-strategy_4rzryu2sh4eabksg._V374333592_第1に独禁法の存在がある。アマゾンが出版社を兼ねるビジネスモデルが最大の利益をもたらすとしても、その利益は(権力に依存しない限り)長続きしない。永続性を基本としたビジネスモデルなので、続かない利益は意味がない。現在のアマゾンは供給独占ではなく、需要独占なので問題にならないが、出版社として圧倒的なシェアを取ればもちろん供給独占の状態になるので、アマゾンは必ずそうした状態を避けようとするだろう。アマゾンが出版に乗り出したのは、永続的ビジネスモデルの可能性を(現在と将来の)ライバルに先んじて開拓し、同時にさらなる投資のための資源を拡大するためと考えるしかない。

第2に、アマゾンは自主出版を奨励し、著者と(ストアを介して)読者が直結するビジネスモデルを出版市場の中に定着させている。ブランド出版と自主出版は補完的なものだが、インディーズも含めると非ブランド出版の比重は大きくなっていくだろう。アマゾンは、印刷本の書店流通を前提に、大中小のブランド階層に沿って成立している出版流通秩序をイノベーションによって変えようとしている。そうしないと市場はその潜在的成長力を実現できないからだ。自らがブランド階層のトップに君臨するためではない。

アマゾンは巨大出版にならない。それはアマゾン自身の成長にとって有害無益だからだ。しかし、アマゾンが(利益を手段として)持続的な成長を求める過程で、既存のブランド階層の秩序は破壊しようとするだろう。ビッグ5に代表される巨大出版社はそれに対して、あらゆる手段を使って抵抗する。しかし、彼らには書店を支えることは出来ないから、オンライン直販を強化するしかないだろうが、それはアマゾンではなく書店を苦しめるだろう。書店は著者・読者との結びつきを強化することで対抗する。それによって旧秩序は自壊していく(完=鎌田、11/12/2013))

Scroll Up