ハーパーコリンズがD2C直販をスタート(♥)

35231ハーパーコリンズ社は10月30日、『ナルニア』シリーズで知られるC.S.ルイス作品のE-Bookの直販を2つのサイト (Narnia.com/CSLewis.com)で開始した。バックエンドのシステムはアクセンチュア社が担当(リリース)。アドビのDRM付EPUB形式で、各巻$6.99で提供される。また iOSとAndroid用のアプリとして HarperCollins Readerの提供を開始し、他の人気作家作品の販売を行うとしている。しかし、コトは単純ではない。[全文=会員]

出版社の挑戦あるいは実験と課題

34254現在のところ、ルイスの『ナルニア』と他の小説、宗教著作、ノンフィクションばかりで、それ以外のタイトルがないが、同社は数千点もの有名作家の既刊本を含むE-Bookの本格的な直販に乗り出したことは確かなようだ。日本の角川のBOOK☆WALKERにも共通するが、著者(作品)と読者をつなぐサプライチェーンの統合は一段階進んだ。専用アプリを使った購入/読書環境の提供は、今後拡大していくだろう。しかし、その意味については、以下のような問題点の考察が必要となる。

  • 専用アプリによる購入/読書環境の提供は、デザインや組版を含むユーザー体験(UX)、ソーシャルリーディングのカスタム化が可能であるが、それはアプリ内に閉じている。
  • KindleやNookなどのストアのデバイスとその環境では(DRMが壁となって)読むことができない。例えばKindleユーザーが読むにはアマゾンからKindle版を買うしかない。
  • プラットフォームのIAP(アプリ内決済)を利用する場合、専用アプリでも「利用料金」を徴収されるので、ストアを介した場合と比べ、必ずしも出版社のシェアは多くならない。
  • 結局、チャネルをひとつ増やすことで、著者(作品)と読者をつなぐという目的は部分的にしか達成できない一方、他社販売分も含めたマーケティングとブランド管理はいっそう複雑になる。
  • 卸や小売としか付き合ったことがない、いわばB2Bの世界にいた出版社が、D2C (Direct-to-Consumer)で結果を出すためには、ストアをつくるだけでは不十分。

C. S. Lewis『ナルニア』に関していえば、Pottermore(『ハリー・ポッター』ワールド)のようでもあるが、Pottermoreは、『カジュアル・ベイカンシー』や『カッコウ』(ともにアシェット社)の著者でもある J.K.ローリングのサイトではない。ハーパーが『ナルニア』とC.S.ルイスのサイトを区別しているのは良いのだが、E-Bookの販売だけならページを分ければ済んだ話だ。またDRMの代りにウォーターマーク(電子透かし)を使って、デバイスの問題を解決している。このへんが中途半端に思える。

E-BookのD2Cは、出版社がデジタル時代に対応するために必要なチャネルであると思われる。しかし、それは入口であって出口ではない。ストアにはストアのマーケティング、サービスが必要で、シロウトには出来ない。武士の商法ではうまくいかないということだ。業種の壁を超えることができたら、そこは競争の世界で、他の出版社はもとより、それまではパートナーであった他のストアとも競合することになる。いずれにせよ、D2Cは出版社のビジネスモデルの拡張であり、それはアマゾンの出版が小売ビジネスモデルの拡張であるのと同じだ。メリットとデメリットがあり、それをマネジメントすることが企業の責任となる。(鎌田、11/14/2013)

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