Kindle Fire OS 3.1にみる戦略攻勢(♥)

Kindle Fire31アマゾンは11月18日、Kindle Fire (HD/HDX)のOSの更新版 3.1をリリースし、ソーシャルリーディングのGoodReadsを標準搭載したほか、タブレットからの動画の飛ばし(Second Screen)、クラウド上での蔵書、資料の整理(Cloud Collections)などのほか、企業LANのセキュリティ環境でKindle Fireを使用可能とするBring-Your-Own-Device (BYOD)機能などが含まれる。[全文=会員]

21世紀(クラウド)型ビジネスモデルの展開

Fire OS 3.1の機能は、9月の新世代製品の発表の際に予告されていたもので、新奇さはない。通常のOS更新がおきまりのセキュリティ向上やパフォーマンス改善であるのに対して、これはアプリやユーティリティの追加が中心。9月に間に合わなかったか、それともソフトウェアの新機能を別に強調したかったのかだが、たぶん両方だろう(更新情報はこちら)。

goodreads1E-Readerとしての3.1の拡張の最大のものは、やはりGoodReadsの統合だ。本の中から直接GoodReadsが利用できる、ということはソーシャルリーディング機能を必要とする(あるいは使ってみたい)人にとっては大きな機能的改善となる。GoodReadsの会員2,000万人の大方はKindleのアカウントを持っている可能性が強いので、顧客ベースを拡大する意味はあまりないだろうが、最大のソーシャルリーディング・サイトをエコシステムに迎えたことで、さらに優位を高めたことにはなる。それにテーマ別ソーシャル・アプリの統合の先行事例になり、今後別のテーマのアプリを組込む場合のノウハウが得られるだろう。

注目すべき点として、一般的にはモバイル・ビデオプレイヤー機能のSecond Screen(アップル AirPlay、Google Chromecastに相当)、あるいはCloud CollectionsとWhispersync によるデバイスの連携などが取り上げられるだろうが、こうしたものは現在の(あるいはアマゾンの)タブレットには必須のもので、あまり当たり前ではない機能にこそ、Kindle Fireの今後の展開を窺わせるものが感じられる。ひと言で言えば、利用場面の拡大だろう。つまり、メディア・タブレット、カタログ・タブレットから、ビジネス・タブレットへの拡張ということだ。

まず、ビジネス/エンタープライズ利用、とくにドキュメンテーションのサポートである。企業がタブレットを利用するには、セキュリティで保護されたWi-Fiネットワーク、サーバへのアクセスが最低条件となる。新OSはSilkブラウザでKerberos 認証を可能にしたほか、Kindleデバイス管理APIを追加したことで、企業のIT部門が管理しやすくした。

精度は不明だが、書き取り(音声→文字変換)機能が標準でサポートされ、オンライン時には「全言語」で、オフライン時には英語での書き取りが可能だ。情報の保管・整理に便利な 1-Tapオプション、写真やドキュメントの無線プリントも、有料アプリとして出ていたようなもの。こうした便利ツールは“容赦なく”無料配布してしまうつもりだろう。

アクセシビリティの改善も見逃せない。Paperwhiteなどは、行政関係者などからアクセシビリティの欠如が指摘され、アマゾンは「E-Readerは機能を落としたタブレット」であると主張してきた経緯があるが、3,1では視覚障碍者用のプロファイルが別に設定できるようになっている。テキスト編集やWebナビゲーション時にも、アクセシビリティ支援機能が提供される。

iPadの優位が通じないビジネス市場

amazon_cloud4ビジネス場面では、タイトルやアプリの数などはあまり問題にならない。使いたいもの、必要なものだけがあればよい。アマゾンは一般的に必要と思われるユーティリティ・アプリを自社で、それもプラットフォームの一部として無料提供するつもりだろう。それもクラウドで。ITよりの話で恐縮だが、今日の企業システム開発は、サービス指向のアプリケーション連携、そしてモバイルのサポートとビッグデータの活用など共通の課題に直面しているのだが、多くの企業がうまく対応できていない。タブレットを導入するのは簡単だが、システム管理上の問題や、UI/UXデザインで個々に解決すべきことが大きすぎる上に、専門家も少ないからだ。

アマゾンは、デバイスではなく総合的なシステム/サービス・ソリューションを提供しようとしている。IBMやマイクロソフトなど20世紀のITベンダーは、これまで販売してきたハードウェア、ソフトウェア・ビジネスのメンテナンスに(ユーザーとともに)苦労している。出版業界と同じだ。アマゾンはE-Bookと同じく、クラウドで先行した。アマゾンのクラウドとデバイスを使えば、すべては簡単に、安くできる。ユーザー企業は最小限の開発・維持コストで、クラウドからアプリまで同じアカウントで、一つの環境として使え、業務アプリケーションに集中できる。アマゾンへの過度な依存という、出版業界と同じ問題が、あらゆる業種で繰り返されるだろう。小売、医療、金融・保険、不動産、製造、官庁…。

アップルもiPadのビジネス・アプリに力を入れ、日本ではかなりの企業が導入を始めているが、ブランド・イメージと価格は、ビジネス市場では必ずしもプラスにならない。アマゾンはデバイスではなく、クラウドを含めた“体力勝負”を仕掛けてきた。(鎌田、11/21/2013)

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