ヴォネガットのファンフィクが1月発売

HHowey版権所有者からライセンスを受けたファンフィクションの商業的プラットフォームであるアマゾン出版の Kindle Worlds プロジェクトについては以前ご紹介したが(08/20)、12月11日、カート・ヴォネガットのファンフィクとして、ベストセラーSF作家のヒュー・ハウィが新作を出版することが発表された。「古典」の世界に、誰が、どんなものを書けるのか、との問いに納得のいく回答が与えられそうだ。

SFの古典世界に現代の人気作家が挑戦

Kindle-Worlds-300x213ハウィの新作は、ヴォネガットの代表作の一つ『スローターハウス5』の叙述構造を使い、2001年9.11のテロの際に自らがニューヨークのWTCの直近でヨットのキャプテンとして体験したことを重ねて書いた `Peace in Amber' で、前者の主人公ビリー・ピルグリムと、本作以外のヴォネガット作品でもおなじみのトラルファマドール星人にインスパイアされた存在が登場するという。『スローターハウス5』はヒロシマにも比肩されるドレスデン大空襲を捕虜として体験した主人公が「時間の中に解き放たれる」ことで生まれる物語を、シニカルでユーモラスなタッチで描いている。

ハウィにとって、この小説は最も感動し、影響を受けた作品の一つであると言うが、自身の9.11体験を重ねることで、時間を移動する主人公と四次元世界を見ることができるパートナーの地獄巡りというモチーフをどう使い切るかは、興味深いものがある。作家が古典「世界」を借りて独自の価値を持つ作品を生むことはめずらしくない。しかし、日本のアニメなどを例外とすれば、近代以前に比べると格段に減っている。Kindle Worlds はこのジャンルに合法的に挑戦する道をつけたもので、成功すれば、既成出版社に対する独自性主張となり、内容的に失敗すれば、非難・嘲笑をかわすことは難しい。作家にとっても出版社にとってもリスキーな挑戦だ。

ハウィ(1975-)という作家は、小出版社でデビューしたこともあり、アマゾンの Kindle Direct Publishing (KDP)を積極的に活用した自主出版で作家としての地位を確立した新しい世代に属する。代表作の Silo/Wool シリーズは、印刷版をサイモン&シュスター、映画化権を21世紀Foxに売った。翻訳権も自分で売っている。印刷版だけでは6桁 (十万ドル単位)、電子版を合わせれば7桁 (百万ドル単位)になるのだが、E-Bookの版権は手放していない。SFというジャンルでは、デジタル化率は5割を超えるというから、前渡金を必要としない作家にとって、KDPで70%の版権料をまるごと得るのは現実的な判断だ。(鎌田、12/18/2013)

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