米国の独立系出版者が「倫理規定」(♥)

IBPA_logo今年で創立30周年を数える米国の独立系小出版社の団体、独立書籍出版協会 (IBPA)は、社会に対して会員が遵守することが期待される新しい倫理規定 (Code of Ethics) を採択した。“デジタル・インフレ”で、出版者とは何か、出版物とは何かが問い直されている時代にあって、IBPAは原点となる出版者の倫理性を確認することによって、過渡期の複雑な問題に対処しようとしている。(全文=会員)

「出版者とは何か」への回答

ethics1背景には、IBPAが受け容れるべき小規模/個人出版者の増加という現実がある。これまではもっぱら会員の販売努力を支援する活動を行ってきたのだが、デジタル化によって小出版社、個人出版者が増加したことで、「出版者とは何か」を明確にする必要を感じたようだ。ISBN点数ベースでも在来出版を超えた自主出版物の激増によって、米国では伝統的な「書物の秩序」が崩壊し、ゲートキーパーを自任してきた旧業界とIBPAに代表される新業界との対立は激しくなった。いわゆる「エロチカ」問題で、一部のオンライン・ストアが一時、すべての自主出版本を販売停止した事件は記憶に新しい。

アンジェラ・ボール事務局長のブログによれば、フランクフルト・ブックフェアで開催された自主出版に関するパネルで、アマゾンのジョン・ファイン氏やジャーナリストのポーター・アンダーソン氏が述べたことが一つのきっかけになったという。ファイン氏は、書籍がほかのメディア・アプリと競っている時代に、人々を気持ちよく本に向かわせる前向きな努力が必要だと述べ、アンダーソン氏はそれを、対立感情を募らせる新旧勢力への休戦提案としてリードした。IBPAはプロフェッショナルの団体として、倫理規定にまとめたということだ。規定は以下の5箇条から成る。

  1. われわれの業界の最高の基準を維持する。持続性のある経済的/文化的価値を持った著作を生み出し、卓越した編集・デザイン・制作品質を追求する。
  2. 著者・クリエイター・ステークホルダーの権利を尊重する。著作権法規と慣行を守り、絶対に盗作を意識的に出版しない。
  3. 著者や協力者の仕事に対し正当な対価を支払う。金銭的取り決めにおいては正直に、契約書はわかりやすい言葉で、紛争の解決は迅速・公正に、また職場では機会均等を促進する。
  4. 偽りの約束、膨らませた販売データ、書評の操作などで読者や購買者を欺かない。
  5. リサイクル、再利用を進め、森林資源保護を徹底する。

高い倫理性が出版ビジネスを守る

これらは「当たり前のこと」のように見えるが、同時に理想でもあり、現実に履行するのはそう簡単ではない。日本の現実に当てはめてみると、客観的な基準がない1を除けば、かなりあやしい。ということで、この倫理規範は、出版者が社会から尊敬される存在であるために必要な条件、判断において考慮すべきことをバランスよくまとめていると思われる。日本の業界「倫理」規定によくある、「公序良俗」などというつまらない表現をとらず、「持続性のある経済的/文化的価値」としているところが素晴らしいと思う。出版者は「社会」やアップルやアマゾンが押しつける基準を前提とすべきではなく、自らが信じる社会的価値を追求すべきものだ。

ethics2書籍出版は、他のメディアに伍して競争していかなければならない。そうした意味では、伝統的に市民社会によって期待され、出版が価値としてきた倫理性を訴求することは、このビジネスを長期的に守っていくためのブランド化というマーケティング的な意味も少なくない。参入障壁がないビジネスであり、倫理性を失えば、出版はたやすく崩壊するかもしれない。これは大出版社にも共通する課題だ。重要なことは、たんなる精神的な努力目標としないことだ。品質管理一つとっても、デジタル化は、従来とは違うプロセス、ルール(保証措置)を必要とする。剽窃や粗製濫造があまりに可能になった時代に、倫理はプロセスとシステムを伴わなければ守れない。

IBPA (Independent Book Publishers Association)は、1983年カリフォルニアで設立され、Publishers Marketing Association (PMA) と名称を変更しながら、2008年に現在の名称となった。会員は3,000あまりで、書籍産業のシンクタンクBISGやIDPFにもボードに名を連ねている。マーケティングに弱い小規模出版社のための支援プログラムが充実しており、年1回開催されるIBPA Universityは有名だ。(鎌田、12/19/2013)

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