毎年、この世界の有力アナリストによるE-Book「×大予想」を紹介してコメントしてきたが、今年もやっておこう。専門家は重要なトレンドと思われる動きを、兆しの段階で捉えそれらが拡大する時期を予想する。そのまま当たらないものもあるが、ほぼその通りになることは多い。少なくともトレンドを形成する要因を分析しているので、役に立つものであることは間違いない。
Digital Book Worldの予想(Jeremy Greenfield, 12/20)は、編集長ほか数名による合作で、多くの要素が吟味されているので無駄なものはない。2014年のE-Bookおよびデジタル出版「大胆予想」として、以下の10項目が挙がっている。
- B&NはNook事業を廃業あるいは売却して上場廃止する。
- アマゾンはB&Nに倣い、2014年に実店舗をオープンする。
- 商業出版社はビジネスを“垂直統合”すべく、事業資産の売却・取得を進める。
- 図解本ビジネスは大きな困難に直面する。
- 出版社はE-Bookの成長が鈍化するために新しい収益源を求める。
- OysterやScribdなどとの提携を通じて、購読制サービスを利用する出版社が拡がる。
- 読者の関心に応える雑誌を出し、そこから読者にE-Bookを直販する出版社が増える。
- 出版社はデータ駆動型の意思決定を採用するようになる。
- 価格設定における実験はなお続く。
- ビッグ・ファイブはE-Bookカタログのすべてを図書館への販売可能にする。
1.B&NのNook撤退は不可避
アマゾンの所為に非ず。ジョブズのプレゼントを無駄にしたツケ
いきなり穏やかでない話題だが、2013年に漂流を続け、ついに粉飾決算容疑でFTCの調査まで受ける身となったB&Nの運命だ。同社がアマゾンを追走して2番手につけたられたのは、現在では大手出版社がエージェンシー価格制で統一したためだというのが定説になった。ジョブズ氏がNookを育てたわけだ。2010年と11年のピーク時にはiPadを差し置いて25%のシェアを謳歌したと推定されている。12年にはマイクロソフトとピアソンからの出資を得てアマゾンとの長期戦に耐える後ろ楯を得たはずだった。
しかし、2012年暮れからはまったく誤算続きで経営陣も動揺してしまった。四半期ごとに5,000万ドル以上の赤字は継続不可能だろう。最近10年がかりでアマゾンの本を書いたブラッド・ストーン氏も、継続不可能とみている。「E-Readerは将棋の駒の一つにすぎず、現在ではタブレット、スマートフォン、セットトップ・ボックスなども含まれるが、この会社にはそれらすべての領域でイノベーションを主導する力はない。」たしかにE-Bookビジネスは、iPadの登場によってデジタルコンテンツ・ビジネスの一つになったのだが、市場が目に見えて変わったのは2012年だ。価格におけるジョブズ効果で保証された2番手のポジションを、この間に生かせなかったのが敗因と言える。その点、アマゾンは最初から正確に認識し、対応していた。
Nookを断念すればB&Nには上場を維持する必要性はないので、廃止することになるだろう。DBWは「短期的にはリアル書店はまだまだ利益を生む事業でいられるだろう。しかし、投資家が期待するのは成長事業であって、デジタルのない書店では投資家の資金を呼び込むことはできない。創業者のリッジオ氏が買い戻して後退する事業を管理していくだろう」というアンドリュー・ロンバーグ氏のコメントを伝えている。
本誌もB&Nによる継続は不可能と考えている。しかし、退却戦はそう簡単ではない。コンテンツ販売は継続するのか、既存ユーザーへのデバイス/リーダのメンテナンスやサポート(OSの更新等)はどうするのか。単純に止めてしまえば、DRMによってコンテンツが読めなくなる契約者の非難は必至で、B&Nとしても、既存契約を承継してくれる企業を探すはずだ。マイクロソフトが引き取らなければ、サムスンあたりが候補になる。いずれにせよ新たにハードウェアを買えと言うことにしかならない。その場合、可能性は高くないが、楽天・Kobo および/またはアマゾンが「ユーザー全面救済」を申し出ることになるのかも知れない。米国市場に足がかりが掴めていない楽天が世界的スケールで勝負するには、消滅するNookを継ぐことができるとすれば大きなチャンスとなる。Nookの消滅は新たな市場再編につながるだろう。
ところでオンラインストアの廃業は、今年の日本の話題の一つでもあるはずだ。昨年5月末には凸版印刷がビットウェイを出版デジタル機構に売却したが、赤字事業の整理は今年も続き、それらをデジ機構が吸収するのかも知れない。立ち上がりは遅いが、リストラは「スピード感をもって」というのが最近の傾向だ。「2015年に1,500億円」とか「2020年に5,000億円」とかいった前提のない架空の数字を前提にしてつくられたビジネスの整理は本格化するだろう。コンテンツビジネスは毎年グローバルに姿を変えていく。米国で20%のシェアを誇ったB&N Nookでさえ転落するのだ。
参考記事
- Ten Bold Predictions for Ebooks and Digital Publishing in 2014. by Jeremy Greenfield, Digital Book World, 12/20/2013