10大予想の4題目は、図解本。とくに実用書の行方を取り上げている。これまで電子化のネックになってきたコスト問題が大きく改善されたので、今年にはかなりの数の図解本が登場することは間違いない。しかし、それが出版社に収益をもたらすものになるかどうかが問題だ。Webは無償コンテンツを量産し、アプリは恐ろしく安い。ビジネスモデルから考え直す必要があると思う。
4. イラストレーテッド・ブックは転換を乗り切れるか
ビジネスモデルの再構築が必要
小説や物語など、主として文字主体のコンテンツは“没入型”読書を想定しており、専用E-Readerはそのために開発された。そしてこれまでE-Bookが最も成功を収めたのも、紙の本のレプリカで十分な、フィクションである。それに対して、料理本、DIYや園芸など、図版中心の本は、出版社や著者の開発努力にもかかわらず、これまでのところ普及は遅い。読者のベースが少ないのである。他方で、実用書が掲載していた情報は、インターネット上で無料で入手できる。アプリも無償のものが多いし、有償でも価格が安い。明らかに市場は縮小しており、状況はよくない。
よいニュースは、拡張型E-Bookの製作コストが下がっていることだ。EPUB3の固定レイアウト仕様が固まり、開発ツールの価格が急落し、スキルを持った制作プロダクションが増えている。DBWは、Aerbookという制作会社を経営する、ロン・マルティネスCEOのコメントを紹介している。「2014年は大量のイラストレーテッド・ブックが市場に登場する。」と彼は予測するが、「市場がデジタルに移行する中で、もし既存の専門出版社が容易にコンテンツに移行できなければ、市場での地位は大きく損なわれる。出版社にとっては生死の問題だ。」前述のマイク・シャツキン氏は、このジャンルの出版社が絶滅の危機に瀕しているとは考えていない。たしかに数年の単位で、またグローバルにみればそうかもしれない。しかし、実用情報出版において、そもそも伝統的な出版というビジネスモデルが、依存として同じように有効であるとは言いきれない。
いずれWeb、雑誌と融合か
実用情報は、必ずしも書籍形式ではなく、雑誌を通じても提供されている。書籍と雑誌の境界はもともと曖昧なのだ。雑誌は様々な産業、ビジネスとリンクし、広告を掲載することでより大きなビジネスを担っている。Webでの無償情報が充実しているのは、サービス・ビジネスと連携しやすいためである。生活に密着しているので無償情報も増加する。Webの表現力が向上するにつれて、Webコンテンツは充実し、ビジネスモデルの一部として機能するだろう。それらがアプリとして市場に「流出」していけば、伝統的出版モデルが同じ土俵で競合することは難しい。書籍に勝ち目があるとすれば、これまでの読者が失われないうちに、競争力のある価格で、新しいサービスとともに、拡張E-Bookでのビジネスモデルを構築することだ。
この問題も日本に共通する。しっかりした図解本を編集、制作するのはカネと時間がかかる。必然的に採算点が高くなるので、価格が高くてもかなりの部数が出なければ続かない。改訂も必要になるので、再版の部数も問題になる。そういう点ではデジタル向きなのだが、通常のコンテンツとして採算をとるのは、制作費が十分に安くなるだけでは足りないだろう。かといって、紙にしがみついていたら消えて行くしかない。◆=つづく(鎌田、01/02/2014)