ニューヨークの出版産業調査会社 Codex Group の昨年11月の調査は、E-Book購入者の86%が購入を1ヵ所に絞っており、ほとんどがKindle、iBooks、Nookのいずれかであるという結果を明らかにした。つまり、米国のE-Book小売はこれらの箱庭の中で行われており、とくにアマゾンとアップルはE-Book、楽曲、映画について、検索、購入、再生を一手に引き受けているということになる。[全文=♥会員]
一貫した読書体験の提供がエコシステムを形成
予想はされていたことだが、この結果はかなり重い意味を持つ。デジタル・コンテンツのエコシステムの支配力は圧倒的であり、KindleとiTunesの2つのメガストアに(それらのレベルで)対抗するのは困難だ、ということだ。顧客のロイヤリティはかなり高く、慣れもあって、別のストアに移ること、試すことも少ない。ソニー、Google、Kobo、サムスンで購入するのは、複数の選択肢を使う14%の中に収まってしまう。しかも、このグループでさえ、部数ベースの購入の32%はKindleなのだ。
Digital Book Worldのジェレミー・グリーンフィールド編集長は、これらの事実からおよそ次のような2点を読み取っている(DBW, 01/21/2014)。
- 読書・購入・格納の透過的体験を提供するビッグ・リテイラーは、継続的に購入/利用する愛用者を得ているので、おそらくそれを維持するのに大きな努力は要らない。
- より小規模なリテイラーは、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客の確保においても困難を強いられる。最大の敵は、価格、独占コンテンツ、遍在性で彼らの顧客を惹きつけて止まないアマゾンだ。
基本的には同感だが、前者については補足を必要とする。アップルの場合には、最初から高額でも魅力的なデバイスを購入した顧客のアカウントを得ているから、コンテンツの販促にさして努力は要らないかもしれないが、アマゾンのようなマルチデバイスの環境を提供するストアのユーザーにとって、「透過的な環境」には継続的に顧客を誘引する販促活動が含まれる。アマゾンはKindleデバイスのユーザーに引き籠ることなく、専用E-Reader以外の他社製デバイスのユーザーをもターゲットにしている。現在、シェアを低下させて危機的な状態にあるNookの場合は、二位の座に安住していたためにアマゾンとアップルから侵食されているのだろう。
エンゲージメントを獲得するのが市場競争
JG編集長が言うように、顧客のロイヤリティを得るのは低価格ではない。価格カルテルや課税によってもアマゾンが影響を受けないのは当然だ。新規顧客の獲得にはコストがかかり、既存顧客は安定した利益をもたらす。アマゾンは利益を滞留させず競争に使っているから、両者は完全にバランスしていて弛緩するところがない。しかもつねに「チャレンジャー」として仕掛ける側なので、失敗したとしても競争でのロスが少ない。アマゾンだけにできていることは、顧客を知り(顧客から学び)、顧客の期待することを率先して実践することだ。
アマゾンとアップルという二大メガストアは、いまや二大メディア(あるいはメタメディア)として振る舞っている(E-Book 2.0 Forumの筆者連載を参照)。ブランド・ロイヤリティで高収益を上げるアップルと、一世代進んだマーケティングを展開するアマゾンに対して、それ以外のストア、あるいは直販に乗り出そうとしている出版社に勝ち目はあるだろうか。
それを考えることは本誌のテーマでもあると考えているが、今日の市場競争が、仕掛け自体の優劣を競うものではなく、ユーザーの「エンゲージメント」を競うものであり、2つのAの成功もその例外ではないことを知れば、道は開けてくると思われる。まったく対照的な2つのAにしても、互いによく学んでいることに感心する。KindleはiPodから、iPadはKindleから多くを吸収している。そして古典的なブランド・ロイヤリティではない、現代的なエンゲージメントをターゲットにしている。エンゲージメントを、両者とは違った方法で追求し、消費者の支持を得ることは理論的には可能である。KindleやiPadより魅力的なリーダ、アマゾンより幅広い品揃え、安い価格が提供できないからエンゲージメントが得られないなどということはあり得ない。◆(鎌田、001/23/2014)