2013年の出版物推定販売金額が出版科学研究所から発表され、書籍が2.0%減の7,851億円、雑誌が4.4%減の8,972億円。合計でー3.3%の1兆6,823億円となった。単純に過去5年間の傾向で外挿しても、5年後の2018年には、書籍が7,000億円を切り、雑誌が7,500億円を切る。取次と書店の淘汰が進み、増税が待つ中で、これからの減少は平均的には進まない。来るべき日を待つだけだ。
出版業界に属さない人間から見ると、これを「出版不況」とか「出版業界の失われた18年」とか言うのは、まともではない。20年近くも続く不況はあり得ないし、失われた業界であり続けることもできない。そしてこれは日本だけの特殊な現象だ。
「失われた」業界に働いている人々はどんな将来を考えられるのだろうか。過去はともかく、現実を認めない限り、社会からも相手にされなくなる。日本人が本や雑誌を必要としなくなっているのでない限り、結論は明確だ。業界のシステムが市場のニーズに対応せず、改革を怠ってきたこと、そしてこの「不況」は遠からず終わる。可能性は3つ。(1)崩壊、(2)国営化(市場からの離脱)、(3)デジタルを前提とした再構築だ。最初と最後はともにデジタル中心の新システムを向いているが、(1)はハード・ランディング(硬着陸)、(3)はソフト・ランディング(軟着陸)で、前者は痛みと犠牲が大きすぎる。そして(2)は日本が中国のような体制を選択することを意味する。
『出版状況クロニクル』で小田光雄氏が述べているように、特定の商品、特定の形態に最適化されたこの流通システムは、「近代出版流通システム」として、国家統制のもとにスタートし、戦後には再販制(独禁法の適用除外)を得て業界の発展を支えてきた。しかし、「高回転、低返品率」の雑誌と「低回転、高返品率」の書籍を相乗りさせたこのシステムは、1990年代に矛盾を拡大させ、再販委託制の低マージンで書籍を販売してきた書店を廃業に追いやってきた。その穴は、大型・複合店とアマゾンが埋めることになった。またDTPによる制作面での“価格革命”とマンガというキラー・コンテンツのお蔭で、出版社は息を継ぐことが出来たが、もはやそれも限界で、とって代わるものもない。
印刷物をめぐるエコシステムとして存在した現在の出版業界は、5年以内、あるいは売上規模1兆2,000億円、アマゾン・シェア30%あまりの水準で独立性、一体性を失い、分解を始めるだろう。最も高い可能性は、(アマゾンを含む)他の流通あるいはマーケティング・サービスに吸収されていくことだ。インフラ部分は機能的に金融・決済と物流に分解され、取次が事実上共有してきた出版市場のオーガナイザーとしての役割は宙に浮く。取次大手が生き残るには、印刷物以外、書籍・雑誌以外の(非再販)商品、さらに何らかの形で小売にも手を広げるしかないだろう。大手あるいは中小出版社は、それぞれ独自の(書店=再販制を前提としない)サバイバル戦略をとらざるを得ない。読者にアクセスできるコンテンツと能力を有する個々の出版社のサバイバルは可能だが、割を食うのは専業書店で、読書家のニーズに最もよく応えている流通が最大の被害を受けるだろう。
出版、印刷、取次、書店の連鎖で成立していた印刷本エコシステムの歴史的崩壊は、読者とのインタフェースである書店の衰弱とともに始まり、出版の劣化がそのプロセスを加速している。再販制の改革もエコシステムの解体を食い止めるものではないが、少なくとも近代出版文化を守り、ソフト・ランディングをデザインする上で最低限なすべきことではあるだろう。◆(鎌田、02/06/2014)
年 | 書籍 | 増減 | 雑誌 | 増減 | 合計 | 増減 |
1996 | 10,931 | 4.40% | 15,633 | 1.30% | 26,564 | 2.60% |
1997 | 10,730 | ▲1.8% | 15,644 | 0.10% | 26,374 | ▲0.7% |
1998 | 10,100 | ▲5.9% | 15,315 | ▲2.1% | 25,415 | ▲3.6% |
1999 | 9,936 | ▲1.6% | 14,672 | ▲4.2% | 24,607 | ▲3.2% |
2000 | 9,706 | ▲2.3% | 14,261 | ▲2.8% | 23,966 | ▲2.6% |
2001 | 9,456 | ▲2.6% | 13,794 | ▲3.3% | 23,250 | ▲3.0% |
2002 | 9,490 | 0.40% | 13,616 | ▲1.3% | 23,105 | ▲0.6% |
2003 | 9,056 | ▲4.6% | 13,222 | ▲2.9% | 22,278 | ▲3.6% |
2004 | 9,429 | 4.10% | 12,998 | ▲1.7% | 22,428 | 0.70% |
2005 | 9,197 | ▲2.5% | 12,767 | ▲1.8% | 21,964 | ▲2.1% |
2006 | 9,326 | 1.40% | 12,200 | ▲4.4% | 21,525 | ▲2.0% |
2007 | 9,026 | ▲3.2% | 11,827 | ▲3.1% | 20,853 | ▲3.1% |
2008 | 8,878 | ▲1.6% | 11,299 | ▲4.5% | 20,177 | ▲3.2% |
2009 | 8,492 | ▲4.4% | 10,864 | ▲3.9% | 19,356 | ▲4.1% |
2010 | 8,213 | ▲3.3% | 10,536 | ▲3.0% | 18,748 | ▲3.1% |
2011 | 8,199 | ▲0.2% | 9,844 | ▲6.6% | 18,042 | ▲3.8% |
2012 | 8,013 | ▲2.3% | 9,385 | ▲4.7% | 17,398 | ▲3.6% |
2013 | 7,851 | ▲2.0% | 8,972 | ▲4.4% | 16,823 | ▲3.3% |