アドビは2月4日、2014年7月と提示していたオンラインストア、アプリとデバイスの開発者に提示していた新しいDRMの導入を、義務的ではなく任意のものとすると発表した。これにより旧DRMのリーダーとコンテンツがサポートから外れて宙に浮いてしまう危機は回避された。顧客からの強い反発に素早く反応したものだが、アドビがこの問題を軽く見ていたことが浮き彫りにされた。[全文=♥会員]
DRMの更新・変更には問題はない。ユーザーにトラブルを生じることなく、セキュリティが向上するのなら。じつのところ、旧DRMは過去4年にわたってハッキングの対象になっており、ハッカーには抜け穴同然だったことが知られている。アドビのDRMソフトウェアのユーザーは、直接的にはストアとリーダ・アプリ/デバイスの開発者だ。独自のDRMを使用しているKindle、iBookstore、Koboを除くストアと開発者、全米の図書館は、ほぼアドビのADEPT (Adobe Digital Experience Protection Technology)というDRM技術を採用している。メーカーとしては、ソニー、Pocketbook(東欧)、Gaja (OEM)など。最終ユーザーの数は最大1,000万人規模にも達する。
1月21日にAdobe DE 3.0が発表された時、いくつかのブログは新旧DRMの互換性問題を指摘し、移行スケジュールとともに旧DRMへの対応に注目が集まっていた。旧DRMを実装したリーダ数百万、サポートしたコンテンツ数十万点が過去5年にわたって提供されており、仮に新DRMと旧リーダ/コンテンツの互換性が無いとすれば、次のような問題が生ずる。
- 既存のリーダ(多くはソフトウェアが更新されていない)で新しいコンテンツが読めない。
- 新しいリーダで既存のコンテンツが読めなくなる。
- 上記の事態を避けるために、アドビDRMを使用するストアとアプリ/デバイス開発者は、すべてのユーザーのDRMを更新し、同時に旧DRM対応コンテンツをすべて新DRMに対応させる必要がある。
DRMユーザー(E-Bookベンダー)に多大な経済的負担(損失)を生じ、最終ユーザーの投資(デバイス、コンテンツ)を大きく毀損することになるわけで、まさかアドビが貴重なユーザーを怒らせるようなことをするはずはあるまいと常識的には考えられていた。ところが、1月29日に開催されたDatalogicsとアドビのWebミーティングにおいて明らかにされた移行スケジュールは、関係者を仰天させるものだった。なんと、3-7月を移行期間とし、7月以降はストアやアプリの対応いかんに関わらず、見切り発車すると言ったのだ。1週間足らずで「期限」を撤回したのは賢明だが、もっと賢明なら、最初からユーザーに打診し、合理的な移行方法を用意しておくべきだったろう。
気になるのは、最終期限を撤回したことが、旧DRMユーザーに実質的に何を意味するかだ。互換性問題はアドビが解決するということなのか、それとも新しい期限と中間的な対応方法が提示されるのか。まだそれは示されていない。
アドビはマイクロソフトやIBMなどと同様、インド人が最大人口を占める。ADEの担当マネージャーもインド人。シャンタヌ・ナラヤンCEOは、オバマ大統領の顧問を務めるほどの人物だが、やはりインド人だ。考えてみれば、インド人との交渉では、こうした「サプライズ」は珍しいことではない。グローバルなビジネスでは、われわれもインド流儀(自分の都合をストレートに示し、冷静かつ合理的に、納得がいくまで交渉する)に慣れなければならないのだろう。◆(鎌田、02/06/2014)
参考記事
- Adobe to Require New Epub DRM in July, Expects to Abandon Existing Users, by Nate Hoffelder, The Digital Reader, 02/03/2014
- Adobe: We Didn’t Mean to Use DRM to Break Your eBook Readers, by Nate Hoffelder, The Digital Reader, 02/04/2014