本・雑誌など多様な形態を包摂するデジタル出版のビジネスモデルは、コンテンツあるいは出版の価値の最大化を志向するものであり、その価値の多様性に対応したビジネスモデルが次々に生み出される。それは出版する側(オーガナイザー)のチャネル選択の自由、出版プロジェクト/ビジネスをサポートするテクノロジー/サービスの選択の自由によってもたらされる。
オープンなサービスの連携としての出版
サプライチェーンを中心とした前回までの話をまとめる意味で、いくつかのチャートを描いてみた。これは、デジタル出版において特徴的な、驚くほど多様なテクノロジー/サービスを理解し、そこから生まれるビジネスモデルを識別し、構想するのに役立つことを意図している。本誌は過去4年あまりに米国を中心に生まれた出版系のベンチャー起業とビジネスをかなりフォローしてきたが、可能な限りコンセプトの新規性と目指すカテゴリ、依拠するテクノロジーについてふれてきた。日本では、出版はふた昔以上前のビジネスという世間の偏見があるために、メディア/テクノロジー・ベンチャーへの関心は高くないが、米国ではかなりの資金と人材を集めており、SNSに続くカテゴリを形成しつつある。
1. デジタル出版の基本フレームワーク
出版に関わるキー・ステークホルダーを縦に、サプライチェーンの選択肢を横に並べたのが図1である。出版社と書店の両方を必要とするもの (I)、片方だけを必要とするもの (II、III)、どちらも必要としないもの (IV)の4つに分かれる。著者、出版社、書店の三者の関係は、著者や対象読者の性格によって異なるから、(I)をノーマルと考えるべきではない。出版社も書店も、それぞれ自己に最適化した垂直統合(分野別の選択と集中で可能になる)を志向する。また出版をサポートするサービス機能の統合による水平統合(プラットフォーム化)で、広告などの別のビジネスモデルを派生する動きが強まる。
2. サービス機能の分解と再統合
出版社と書店を含め、著者と読者の間に存在するものを「サービス機能」として表現したものが図2である。出版社、書店が不要となるのは、これらが果たしていた機能がサービスとして、業界以外の企業や個人から入手できることを意味している。左側の「出版関連サービス」が、かつての感覚では信じられないほど多様化し、構造化し、ネットワーク化していることに注目していただきたい。重要なことは、サービスのユーザーとプロバイダーが、ともに伝統的な「出版業界」の外に開かれていることである。出版プロジェクトにおいては、垂直的な最適化が行われるが、そのベクトルは著者方向と読者方向にそれぞれ向いたものが考えられる。
3. 出版支援サービスの世界
サービス機能を7つに分類して示したのが図3、それらを階層化して示したのが図4である。
後者については少し説明が必要だろう。サービス機能には「汎用性/専用性」という2面がある。HTMLというWebの標準がEPUBという出版用のフォーマットに転用されたように、デジタル時代のサービス機能は汎用化/特殊化という軸で存在している。SNSや金融、デジタル・マーケティングなどの機能は、汎用的なサービスの出版向けアプリケーションとして利用されることになる。他方でクラウドストアやオンデマンド印刷、ソーシャルリーディングなどは出版プラットフォームの一部を成す。出版社は、それぞれのプロジェクトに合わせてソリューション(テクノロジー/サービスの組合せ)を必要とする。これがサービスの階層性である。◆ つづく (鎌田、03/27/2014)