米国において「エージェンシー価格制」は過去のものとなり、大手出版社も前向きに価格設定と取組んでいるが、隣国のカナダはまだ決着していない。独禁当局は先月4つの出版社との和解を発表したが、それに異議を唱えたのが地元のKoboだ。それ自体にあまり意味はないが、その意見書の中で、米国における固定価格の終焉が同社のシェア低下を招いたと述べていることには注目しないわけにいかない。
エージェンシー価格が消えればアマゾンの競合はいなくなる!?
もし米国と同じ措置が取られるならば、カナダでも同じ事態に見舞われる、とKoboは主張している。Webビジネスでカナダを代表する企業の一つであるKoboが唯一、アマゾンに勝っている市場で優位が失われるという主張に信憑性があるなら、それはただ事ではない(擬傷行動にしてはリアリティがある)。Koboは以下のように述べている。
「Koboのシェアは確実に減り続けた。Koboは米国でのマーケティング投資を中止し、シカゴの事業所を閉鎖して別の市場に重点を移している。米国でのシェアと売上はごく僅かなものとなった。Koboはカナダ市場ではリーダーだが、こうした重大な損失はテクノロジーに投資し、その成果を市場に届けていくKoboの能力を損う。Koboがどんな価格戦略をとるとしても、現在より競争力を低下させ、E-Book価格を、競合企業が対抗できないほど低いレベルに保つ一部の小売業者に市場シェアを明け渡すことは避けられない。」
Koboはまた、ソニーの米国市場からの撤退やBarnes & Nobleの苦境もエージェンシー価格の禁止と関連づけ、きわめて短期間に起こった競合企業の消滅がカナダにおいても繰り返されるとしている。アマゾンを名指しはしていないが、要するに小売価格をアマゾンの自由にさせたらほかのE-Bookストアが消えてしまう、と言っているわけだ。これはじつにくだらない理屈で、アメリカの消費者から永久に見放され、英国の消費者からも見限られることは間違いない。もちろん、大手出版社がこの負け馬に期待することはない。
サバイバルにはビジネスモデルのイノベーションが必須
The Digital Readerのネイト・ホフェルダー氏は、「要するにKoboは、アマゾンが米国で値引販売を許されたので、価格以外のどんな手段(マーケティング、顧客満足、機能、コミュニティ…)によっても太刀打ちできなかったと言っているわけだ。しかし、Zola Books、The Reading Room、Bilbary、Oyster、Scribdといった企業が、それぞれ独自のビジネスモデルと付加価値でアマゾンに対抗していることからみて、この主張は奇妙だ。」と述べている(下記参照記事)。独立系書店団体ABAとの提携プログラムに参加している書店に対しても悪いメッセージになる。
E-Bookの価格の問題はビジネスモデルの問題だ。アマゾンはむやみに価格を下げているわけではない。アマゾンの価格は「数が出る本は安く、そうでない本はそれなり」というものだが、このポリシーじたいは大手チェーン(B&N、BAM)が半世紀も前から印刷本についてとっている価格政策と変わるものではない。数が多ければ安くして市場を刺激するのはマーケティングの基本だ。出版社はベストセラー本で稼ぎ、赤字商品のロスをカバーする。大手書店はベストセラー本の値引を囮にして客を惹きつけ、別の本を売って利益を上げる。それによって、売れない本にも光が当たる。独立系書店は「売れる商品よりも買ってくれる客」を重視した商売をしているからシェアを維持している。
E-Bookの販売方法は単品をコツコツ売って利益を上げるやり方以外に、定期購読(定額読み放題)モデル、広告モデルなどが登場している。アマゾンのビジネスモデルは総合的・複合的なものだが、E-Bookはもちろん、デバイスにおいてさえ、採算性は忘れられていないと言われている。あらゆる本で同じように利益を上げたいというのであれば自由市場ではやっていけない。Koboの意見書は、アマゾンを欺く擬傷行動である可能性が強い。とくに競争に敗れたソニーのシェアを棚ボタ的に受け継いだのだから。 ◆(鎌田、03/11/2014)
参考記事
- Kobo: Ending Agency Pricing Will Kill Us, by Nate Hoffelder, The Digital Reader, 03/07/2014