出版社や企業にE-Bookマーケティング支援サービスを提供している Sellbox.com/Kindle Book Reviewが、300人ほどの著者出版者を対象とし調査を実施し、結果を公開している(PDF)。調査主体や対象の性格から、サンプルの代表性については大いに疑問はあるが、質問の構成や回答の内容はなかなかに興味深いものがあるので紹介しておきたい。
サポート・サービスは拡大するがプラットフォームはKindle中心
米国の自主出版に関する調査レポートは、昨年あたりから増えてきた。このビジネスモデルを利用する著者が多く、サポートするサービスも増えてきたというだけではない。その動向が、出版社にとっても、ストアにとっても重要な意味を持ってきたためだ。eBook Self-Publishing Surveyの調査を実施したSellbox.comは、2002年の創業で、コンサルティング、マーケティング、制作(デジタル、オンデマンド印刷)などE-Book関連の出版支援サービスを提供している。Kindle Book Reviewというサービスは、一種のパブリシスト(新刊広報)の役割を果たすもので、書籍の認知度を高めるために、著者同士による“交換書評”や有償書評サービスを提供する。その名の通りKindleだけにフォーカスしているが、調査結果を見るとその理由は明白で、自主出版では圧倒的にシェアが高く、効率がいいからだ。
GoodreadsやLinkedInなどSNSのコミュニティ、カリフォルニアの独立系著者団体などから集めたというサンプルの属性は、約半数の53%が2点以上を出版しており、24%が1点。23%が進行中。ジャンルでは、フィクションが42%、叙述体のノンフィクションが15%、その他のフィクションが31%で計46%。児童が9%、教科書が2%なので、フィクション系とノンフィクション系がほぼバランスしている。PoDサービスの利用は9割と圧倒的に多い(つまり10%がE-Bookのみ)だが、アマゾン系のCreateSpaceの利用が48%と突出し、在来の印刷会社が21%、イングラム社のLightning Sourceが15%。
著者出版の場合、プロフェッショナル・サービスを利用するかどうかが問題となる。直接的にはテキスト編集と表紙デザインだ。表紙デザインにはまったくお金をかけていないとの回答は42%、250ドル以下が28%、250-500ドルが17%なので、500ドル以上かける著者は12%しかいないことになる。表紙デザインと売上の関係は様々な調査で報告されており、ROIはいいはずなのだが、安く仕上げてくれるデザイナーが身近にいないためか。編集は「編集者に外注」が46%。「自分で」が34%、「友人に依頼」が20%。セルフ編集は意外に多くない。
DRMについては、「付けていない」が42%、「付けている」が33%。「分からない」が26%で、相対的には「付けていない」ほうが多い。DRMは著者には不要なものと言う認識が広がっているようだ。価格は、70%が5ドル以下だが、3ドルおよびそれ以下が35%、10ドルとそれ以上は16%いる。中心的には3ドル台ではないかと思われる。ストアへの入稿の方法では、「自分で」が58%、「誰かに頼んだ」が16%。プラットフォームなどが提供するサービスを使ったのは、合わせて26%ほどか。
出品しているストア(複数回答)では、アマゾンが40%、B&Nが19%、アップルが12%、Koboが12%、Smashwordsが9%などかなり分散している。「自分のサイト」も6%。しかしストア別の売上ではアマゾンが85%と他を圧して多い。売上が立つ可能性があるのはアマゾンくらい。自主出版の売上シェアは、商業出版のシェアと比べるとアマゾンに偏っている。これはアマゾンが、KDP Selectなど自主出版本のマーケティングを重視し、またレビューも多いことと関係があると思われる。
最後に、次回の出版のための制作予算では、$500-1,000が最も多く35%。500ドル以下が23%で、60%が1,000ドル以下。1,000ドル以上は34%。マーケティングについては、500ドル以下が32%だが、$500-1,000が30%で、$1,000-2,000が15%、2,000ドル以上も23%となっている。全体として、制作よりマーケティングに金をかける傾向がみられる。
自主出版は米国では、ISBNベースでも商業出版に匹敵する規模に達しているが、上記の調査結果は、出版に関する支援サービスだけでもかなりの規模が見込めることを示している。自主出版市場に対するサービス市場の比率はまだ分からないが、PoDなどで街の書店などでの扱いが拡大すれば、既存のインフラとの協調も進むので、将来的には金額的にも億ドル単位の規模になるだろう。◆(鎌田、03/06/2014)