出版界の地殻変動を示す5枚のチャート (3)

profits前号では、出版がデジタル転換を乗り切ったという英国の大手出版関係者のコメントを紹介した。そこで出版社の強気の根拠となっている数字を紹介しておきたい。制作と流通コストを圧縮できるE-Bookは、それだけでコストが安いのだが、じつは版権料も安くて済んだのだ。これまで出版社は印刷本の採算性の壁に苦しんできたが、いまや状況は一変した。

デジタルで出版が儲かるようになった!?

下の図はハーパーコリンズ社の親会社であるニューズ社の投資家向けの資料(2013年5月)に掲載されたもので、書籍一部あたりの利益率を、ハードカバーとE-Book(委託制)を比較している。小売価格は、紙が27.99ドルでE-Bookが14.99ドル。当時の典型的な価格だ。出版社の取り分は紙が49.0%で13.72ドル、E-Bookが70%で10.49ドル。しかし、紙の制作コスト=1.92ドル、返品コスト=1.17ドル、流通・発送費=0.76ドルなので、これらを控除した残額は9.87ドル。価格がはるかに安いデジタルのほうが額は多くなる。重要なのは著者への版権料で、紙の場合は(出版社の総収入の)30%で5.67ドル、E-Bookは同じく25%で2.62ドルとなり、利益は5.67ドルと7.87ドルで、2ドル以上の差を生む。この差は、デジタルの売上が大きくなるほど大きくなるのである。出版社がE-Bookを売りたい理由は簡単明瞭である。

profit

これまで大手出版社は、著者や書店との関係に配慮して「E-Bookで儲かっている」と公言するのを憚ってきた。“安売り王”アマゾンを悪役にしておいたほうが得であったからだ(出版社の決算に注目していた本誌は2012年ごろから出版社の利益率向上を取り上げている)。出版社がそうした芝居を止めたのはほぼ昨年からで、エージェンシー価格訴訟が決着し、事実が知られてきたことのほかに、デジタルの波に乗ることに成功したメディア企業として、積極的に訴求すべき段階にきたと判断したのであろう。資金と人材を集め、メディアの再編をリードする意思表示とも言える。

粗利益の4分の3は出版社に

しかし、「デジタルは儲かる」ことが周知の事実になったことは、これまで封印されてきた問題を表面化させることになるだろう。著者版権料と出版社の取り分の問題だ。上記のモデルによれば、ハードカバーの場合の著者と出版社の間のコスト控除後の「分け前」は、42.5:57.5なのに対し、E-Bookでは、じつに25:75と、一方的に出版社に有利になっている。E-Bookのベストセラーが、いかに出版社に利益をもたらすかは誰でもわかる。著者/エージェントがここからより多くを得ようとするのは言うまでもない。そしてその際には自主出版、あるいはアマゾン出版という選択肢が比較されることになるだろう。

出版社にとって、せっかく手にした高い利益率は絶対に手放したくないものだろう。それは商品開発やビジネスモデルにおける自由、つまりメディアビジネスの主導権につながる。しかし、そのために不可欠なのが(ライバルとアマゾンを凌ぐ)マーケティング能力である。著者や小売に依存するようなら、著者は出版社の「強欲」を非難するだろうし、自主出版を対抗手段として使うことになる。これまでのところ、大手出版社は有名著者への前渡金の増額と、利益をもたらさない(と推定される)著者への前渡金廃止、というかなり荒っぽい対応をしているようだ。前者は競争上仕方がないことだが、後者は中以下の売上の著者への経済的打撃となっている。著者の窮状はNYタイムズなど旧メディアがよく取り上げる話題だ。ようするに、E-Bookは、出版社に利益をもたらしたことで業界のエコシステムに大きな影響を与えているのだ。(鎌田、04/17/2014)

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