アマゾンは4月2日、かねて噂されていたストリーミング・ボックスをニューヨークのプレスイベントで発表し、すぐに発売を開始した。名称は Amazon Fire TV で価格は99ドル。Apple TV や Roku、GoogleChromecast との競合というレベルを超えて、21世紀のメディアライフに少なからぬ影響を与えると見られる。Kindleエコシステムの基幹として、何年もかけて開発してきただけに、完成度は極めて高い印象だ。
「アマゾンTV」で完成するメディア・エコシステム
Fire TVはクアッドコアCPUと専用GPU、2GB+8GBのメモリを搭載し、802.11 a/b/g/nのデュアル・バンドWi-Fiをサポートする、今日では標準的スペックのデバイス。Hulu Plus、Netflix、Quello、NBA GameTime、Plex、、YouTube、Vevo、TED およびMLB.tvなどのサードパーティ・アプリが最初から搭載されており、主要なコンテンツ・サービスを利用することができる。直接にPS4やXboxと競合するするものではないが、ゲーム機能も重視しており、ディズニーや Ubisoft、EAなどからの数千種のアプリが利用できる。40ドル(ゲーム購入用のアマゾン・コイン1000が付属)で別売される Fire Game Controllerで楽しむことができる。
アマゾンはApple TV、Roku、Google製品も販売しており、もちろんTV製品も扱っている。Fire TVの開発にあたっては、それらのユーザー・レビューでも最も不満が多かった「リモコンを使ったタイトル検索のやりにくさ」に焦点を当てたと発表で述べている。'ASAP' はユーザーの視聴履歴などをもとに、再生ボタンを押さなくても自動再生されるプログラムで、かなりTV的なインタフェースと言える。
Fire TVは、ロジテックやGoogle、アップルなど、ライバルとなるメーカー出身者の混成チームで開発が進められてきた。昨秋のリリースが噂されたが、なぜか出なかった。おそらく、Fire TVがピースとして組込まれる、Kindle Fireのエコシステムが TVプロジェクトの打上げに必要な推進力を提供するには不十分と考えたのだろう。今回の発表では、アマゾンがこれまで必ず、デバイス、ソフトウェア/サービス、コンテンツを同時にデザインしてきたことを強調しているが、膨大で複雑な版権が絡むコンテンツを有利な価格で揃えるために、あえてFire TVを急がなかったのだと思われる。
Fire TV の機能はKindle Fireと重複しており、Kindleエコシステムの利用を最大化するためのデバイスであり、クラウドサービスと連動する。そしてパーソナル・ユースからファミリーに拡大する上で最も重要な機能は、昨年に一新された Amazon FreeTimeであろう。保護者が子供のメディア消費を管理できるようにするツールで、もともとパーソナル利用が多いタブレットではそれほどインパクトはなかったが、ストリーミング・デバイスでは必須とも言える。アップルやGoogleに対抗するための機能はすでに先行して提供されていたわけだ。家電メーカーを中心としたネットTVの失敗の歴史からよく学習している。GigaOmはこれが子供市場を開拓する決め手になると考えている。
Fire TVは「アマゾンTV」であり、実質的に広告メディアとしても機能するものと思われる。商品のテクスチャを再現する4KTVは、通販メディアとしてとくに有効だ。大型液晶パネルの価格の一部は、広告料で負担することもできる。Kindleで開拓したビジネスモデルを、Fire TVがさらに拡張し、個人とファミリーとしての消費者との主要なコミュニケーション手段として機能する。しかも、これまでのメディアが持ったことがないコンテクストでつながる。おそるべきビジネスモデルだ。
蛇足ながら、この「アマゾンTV」は、出版とも大いに関係することになる。書籍と雑誌を含む出版物のプロモーションに有効だし、その場で注文し、ダウンロードできる。読むのはタブレット、スマートフォンなど何でもいい。ほぼ原価に近い99ドルという価格は、かなり重い意味を持っている。◆(鎌田、04/03/2014)