「エージェンシー価格談合事件」は、出版大手5社が和解に応じたことで実質的には終わっているのだが、賠償金の支払い、還付が始まっても、法廷での最終決着は見えない。世界で最もリッチな企業のアップルが、裁判所を相手に孤独な抵抗を続けているからだ。そしてそのことが新しい現実を生んでいく。NY連邦地裁は3月28日、州と消費者から提起された集合訴訟を受理、アップルの証人申請を却下した。
判事がアップル側の主張を批判
コート判事は「事実上すべての原告側メンバーは、集中化された価格談合のためにE-Bookに不当に高い価格を支払わせらた。本件においてもし原告に適格性が無いというならば、独禁法では集合訴訟など認められなくなる。」と86ページに及ぶ決定理由書で述べている。また原告側証人で損害賠償額算定のためのモデルを提供したエコノミストのロジャー・ノル博士に対抗するために被告アップルが申請した2人の証人(Joseph Kalt、Jonathan Orszag)を却下した。原告側は最高8億4,000万ドル(算定式による消費者の実損額の3倍)の賠償を求めているが、すでにその妥当性を認めたことになる。
コート判事は59ページの意見書でアップル側証人の主張には本質的な欠陥があり、審理に混乱をもたらすことにしかならない、と厳しく批判した。一方、ノル博士のモデルで再計算して別の結果を得たというオルスザク証人は採用した。同氏は、E-Book販売額の18.1%は過大であるとしたノル証人の計算は過大で、14.9%が正しいとしていた。
Publishers Weeklyでこの問題をフォローしてきたアンドリュー・アルバネーゼ氏は、この決定が大規模な賠償を回避したいアップルにとって大きな打撃となり、コート判事が(事実審理前に訴答のみに基づいて行う)略式判決を選択する可能性が強まったと書いている。常識的にはアップル側に残された手段はないとみられる。略式の場合の判決は、早くて7月。
故ジョブズCEOが深く関わったこの事件は、アップルにとって簡単には敗北を認められない特殊なものなのかもしれない。2013年7月の判決は、アマゾンとの価格競争を避けるために、アップルが出版大手5社に委託販売制を提案し、固定価格を主導したと認定しているが、アップルは認めていない。集合訴訟と賠償額の算定においても、弁護団の戦術は問題を蒸し返そうとしているととられ、裁判長の不信を買っている。10億ドルに近い賠償額となったとしてもまったく痛痒を感じない同社だが、価格カルテルを正当化する姿勢はコンテンツ・リテイラーとしての企業イメージには大いにマイナスである。少なくともアマゾンにとってのプラスであることは確かだろう。◆(04/03/2014)