出版界地殻変動を示す5枚のチャート (5)

iPad_KTouch米国の出版アナリストが、数多の統計データの中から注目すべき傾向を示すものとして厳選した5枚のチャートを肴に、勝手に論じてきたシリーズも最後の1枚となった。それは2013年5月までのガジェットの保有率を7年間にわたってトレースしたピュー・センターのデータ。「iPad vs. Kindle」という、いまでは色褪せた対抗関係の展開を示したものだ。

メディア・デバイスの「興亡」

iPadが登場した2010年以来、「iPad vs. Kindle」あるいは「タブレット vs. E-Reader」は久しく大きな話題だった。最近あまり取り上げられなくなったのは、そんな対立軸の設定そのものが時代に合わなくなってきたからだろう。E-Book/E-Readerは、もともと本をよく読む人の間に普及してきた。彼らにとって主要な選択は、どこで、何を、見つけ/購入して読むかで、メディア・タブレットか専用E-Readerか、というのは、そもそもあまり問題ではなかったと言っていい。「iPad vs. Kindle」は、出版社やガジェット、メディアの関係者が問題にしたことだった。それはオンライン・プラットフォームの覇権がかかっていたからである。

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上の図で、タブレットと専用E-Readerの普及率は並行して伸びており、2012年春にタブレットが上に出てからはタブレットが上位にあるが、E-Readerも減衰することはなく、共存できている。これは5年間成長のないゲーム・コンソールやMP3プレイヤーのような飽和点にはまだ達していないということだ。しかし、メディアとしての紙に用途があるように、タブレットと専用E-Readerにもそれぞれの用途がある。前者はコート紙の4色刷、後者は上質紙の単色刷といったところで、それに前者はTVにもなるが、後者は「本」しか読めない。読書デバイスとしては、汎用と専用は矛盾せず、後者は「…しか」ないことで価値がある

スマートフォンのような怪物が登場して以来、「汎用機 vs. 専用機」では前者が後者を圧倒しているように見える。デジカメやゲーム機のように。しかし、デジカメやゲーム機の売行きが落ちたのは、これまでが(過度に/無用に)売れすぎたからで、スマートフォンとカメラ機能を競って敗れたわけではない。カメラ・メーカーは(本来のカメラ市場を超え)度を越してしまったのだ。幸か不幸か、専用E-Readerはデジカメとは違い、ビューワで「しか」ない。売れすぎることはない代わり、消えることもない。

アマゾンはE-Book読者と専用E-Readerを最もエンゲージングなユーザーとして重視している。新製品を買ってくれるアップル・ブランドのファンよりも、毎週のようにE-Bookを買ってくれる顧客のほうを選ぶのは、ビジネスモデルとマーケティング戦略の問題だ。アマゾンはKindleリーダをコアにして、Kindle Fire、Fire TVに拡大してきたのはそのためだ。

タブレットの市場拡大のテンポは鈍っても、普及率は遠からず60%台にも達するだろう。フリードマン氏の言うように、タブレットはますます重要になっていく、と言ってもいい。これは出版から見れば、コート紙の4色刷の品質で動画や音声も入れられるコンテンツの市場が成長することを意味する。しかし、それは本の読者がいつも必要とするものではないし、「対話的」で賑やかであるほど「エマーシヴ」な体験からは遠ざかる。自動的に「…しか」ない環境の価値は保たれる。重要なことはつねに、誰が何(who/what)を読むか、いつ・どこで・どうやって(when/where/how)読み、読者がなぜ(why)・どんな体験を求めるかということだ。

上の図では、2012年4月を最後に、デスクトップ/ラップトップが調査対象から外れている。もはやメディア・デバイスではないということなのだろうか。(鎌田、05/01/2014)

本連載一覧

  1. 出版界の地殻変動を示す5枚のチャート (1) :チャネルの消長
  2. 出版界の地殻変動を示す5枚のチャート (2) :印刷本市場の変化
  3. 出版界の地殻変動を示す5枚のチャート (3) :出版社の利益増大
  4. 出版界の地殻変動を示す5枚のチャート (4) :メタデータの重み
  5. 出版界の地殻変動を示す5枚のチャート (5) :ガジェットとデバイス
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