アシェットは衰弱したガゼルか?

gazelleアシェット社とアマゾンの契約をめぐる紛争で新たな動きがあり、しだいに背景が見えてきた。Publishers Weekly (5/12)の見立て通り「本件」は印刷本ではなく、E-Bookだったようだ。Wall St. Journal (5/24、日本版)によれば、背景は出版社の儲けすぎにある。とすれば、エージェンシー価格以後の相場を決めるものだ。しかし著者、消費者を巻き込んだ騒動は穏やかではない。

デジタルはいまや出版社の戦略商品

アシェット社は5月23日、アマゾンが新刊本の発売前予約注文を停止したと述べた。予約の停止は新刊本の出荷・販売数量に大きく影響し、ベストセラー・ランク入りを困難にする。新刊本販売はアマゾンでの「ロケットスタート」に依存するからだ。なぜアマゾンはエスカレートさせたか。マイク・シャツキン氏によると、現在卸価格の約30%が小売マージンの相場とされているが、小売段階でかなり値引きをするアマゾンの取り分はそれより少なくなる。アマゾンは販売における7割前後のシェアを背景に、取り分を増やそうとしている。

Hachette_Amazonアシェット社の直近の四半期におけるE-Bookの売上比率は34%。主力商品であるスリラー物などのフィクションでは5割あまりと言われる。WSJの記事は、ハーパーコリンズ社のケースとして、「E-Bookが約75%。ペーパーバックが60%、ハードカバーが40%」という(卸価格に対する)利益率の水準を紹介しているが、アシェットに当てはめれば、利益の少なからぬ部分がE-Bookからもたらされていることになる。E-Bookの販売を停止するとアマゾンのイメージダウンも大きいので、ターゲットを出版社のフラグシップであるハードカバーを攻撃し、ベストセラー・ランキングを落としてダメージを与えようとしたという構図が読み取れる。E-Bookのベストセラー・ランキングでは、先週段階でベスト20に3点が入っていたが、同社としてはよくない

アマゾンとアシェットの交渉は数ヵ月は続いていた。印刷本の在庫を極小化し、割引率を下げる措置で、事実上販売機会を敬遠しているもようだ。2月頃から小売価格も上昇し、B&Nと比べて2割あまりも高くなっている。アマゾンが求めているのは市場開発協力金 ('Market Development Funds' または 'co-op') の増額であると考えられている。他社より販売パフォーマンスがいいのはアマゾンの努力だから、ということだろう。出版社には別の懸念がある。著者からのE-Book 版権レート引上げの要求が高まっていることだ。こちらも交渉によっては「75%」の利益率は50%以下に細ってしまう。

流動化する著者・出版社・書店の関係

これはイノベーションの果実を(消費者以外)の誰がどう分け取りするかという問題だ。アマゾンはデジタルへの警戒心の強い出版社を市場に引き込むために、出版社の有利な契約も敢えて許容してきた。しかし、デジタルが出版経営の柱に成長し、そして出版社による「エージェンシー価格」の押しつけが当局によって禁止された現在、そして著者の力が増大しているいま、よりタフな姿勢で臨んでいるのだ。著者と出版社と小売の三者の間の分捕り合戦ということだ。

Orix市場が完全にオープン化され、自由化さているE-Book市場では、圧倒的なシェアを持つアマゾン、由緒あるブランドを誇る出版社といえども安泰ではない。著者は自立をめざし、出版社もプラットフォーム化を志向する。パイのシェアは「販売への貢献度」で決まると言っていい。著者がビジネスモデルを選ぶ自由を持つことによって、関係の流動性が保証されている。E-Bookが出版ビジネスの柱となり、その成功におけるアマゾンの貢献に対し、正当な分け前をどの程度とするか、虚々実々の交渉と「実験」によって決定していこうとしている。アマゾンの「不当な戦術」を暴露し、非難したのもアシェットの戦術の一つで、アマゾンはメディアには沈黙を貫きながら、対抗措置によって「力」を示そうとしている。こうした交渉はかなり長くなるのが通例だが、アシェットの経営へのダメージによっては、意外に早く決着するかもしれない。

BradStone_Amazonブラッド・ストーンの 'The Everything Store' (『ジェフ・ベゾス、果てしなき野望』)は、アマゾンが出版社と自らの関係を「病んだガゼルとチーター」に喩えていると書いているが、現在の大手出版社は病んだガゼルなどとは言えず、堂々たる角を持ったオリックス(写真上)になっているとも考えられる。デジタルは何よりも出版社に現金と希望をもたらしたからだ。NYタイムズなどが出版社を無力な草食獣のように描いたとしても、現実はほど遠い。何よりも出版社が、アマゾンでの新刊ハードカバーの売上を犠牲にしてもE-Bookの卸価格で譲らない姿勢をとっていることは、新しいアマゾンと出版社との関係を示していると思われる。 (鎌田、05/25,2014)

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