対アマゾン交渉の争点をアシェットがリーク

Tournament_bavarian_engraving「アマゾン vs. アシェット」の争点が具体的に何であるかは、当事者が緘口令をしいているので明確ではないが、NY Times (6/20)が、匿名のアシェット関係者から得た情報として、それは販売協力金 (co-op fee)の増額をめぐるものであるらしいと伝えられた。つまり成果報酬、あるいは実績に応じた卸価格の引下げに相当する。単純だが根が深い問題と言える。

原因は「販売協力金」だった

本件に関して、アマゾンが公式にコメントしたのは1回。それに対してアシェットは数回の公式声明のほかに(NYTを使って)リークを重ねており、今回は最新のものと言うことになる。日常的に行われているメーカーと小売店の契約交渉において、これは異例な事態であり、明らかにアシェットが仕掛けている。もちろん、NDAを前提とした交渉においてリークは非正規・不誠実な戦術だが、少なくとも同社は自らが有利になると考えている。

pre-orderリークによれば、アマゾンは販売に際して行う一連のサービスに関して代価の支払いを求めている。それには予約ボタン、ユーザーに最適化された推奨サービス、アシェット本専門の担当販売員などが含まれるという。これらは伝統的に販売協力金 (co-op fee) の対象になってきたものと同じ性格のもので、例えば、B&Nは店頭平積みなどに対して請求している。8ヵ月に及んだB&Nとサイモン&シュスターとの契約交渉では、B&Nによる在庫撤去、著者イベントの停止などの対抗がとられた。しかしリーク主はアマゾンが「われわれが標準的サービスと考えるものに対して、あの手この手で代価を取ろうとする」と言っている。アシェットが拒否すると、「それなら」ということで、一つ一つ停止してきたわけだ。結果として、アシェットに関する限りアマゾンはシェアを落とし、アップルや書店の機会を増やしている。

本は「置いておけば売れる」ものではなく、本を販売するのは在来型書店でも簡単ではない。ましてオンライン書店の場合は、読書環境はもちろん、DMからビッグデータを使ったマーケティング・アルゴリズムの開発・運用まで、相当な努力が必要とされる。それは iBookstoreとKindleとのシェアの差が縮小しないことでも明らかだ。アマゾンはそうしたサービスは「標準的」ではなく、代価を請求できると考えている。これはこれで正当性がある。

Gutenberg1アシェットがこれを認めないのは、本はコモディティではないと考えるからである。すべての本は独立した、ユニークな存在であるから、消費者は特定の本を買う意思を持って書店に行くのだということになる。その価値を知る出版社だけが、この特別な商品に値段を付けることが出来る、と彼らは考えている。米国では否定されているが、日本ではおなじみのものだ。他方でアマゾンはこうした天動説(人動説)を否定し、デジタル・マーケティングで結果を出してきた。こちらは、消費者の行動を見る限りコモディティ論争は決着がついているが、アシェットは価格決定権にしがみついている。(右の写真は紙とインクのオーラが工芸品としても最高度に発揮された初期の装飾活字本のインキュナブラ

本はコモディティかスペシャルか:天動説と地動説の対立

前号でご紹介した株主説明資料において、同社は「出版社による価格統制がビジネスモデルの根幹」と強調しており、米国司法省の「エージェンシー価格」談合事件摘発にもかかわらず、このモデルを頑として維持する意思を明確にしている。「嫌なら売らなければいい」という姿勢で臨んできたわけだ。焦土戦術はアマゾンではなく、出版側から仕掛けられた。

ebooksこれをリークすることで、同社は他の大手出版社と著者を味方につけることが出来ると考えているのだろう。メディアは出版社を支持し、書店やオンラインストアは販売機会を増やし、消費者は「売らないアマゾン」を忌避するようになる。その結果として、現在のアマゾン優位の形勢を逆転できるという、かなり大胆な発想だ。「アマゾンなど要らない」というのに等しい。

アシェットは「エージェンシー価格」が終わったとは考えていない。実際、行政と司法によって否定されたのは、談合であってモデルではない。当事者の合意であればこれは合法だ。合意がなければ契約は出来ないが、困るのはアマゾンであって出版社ではない(消費者には他で買ってもらえばよい)。いかにもフランス的な発想だが、NY地裁での和解条件に反すると判断される可能性もあり、だからこそリークによって「世論」をつくっておきたいのだろう。これまでのところ、エキサイトしているのはアシェットとその支援者で、アマゾンは平静を保っている。J.K.ローリング(ロバート・ガルブレイズ)の新作('The Silkworm')では、市場の圧力に応え、E-Book販売と印刷本の出荷を正常化させた(Entertainment Weekly, 6/20)。今後の展開がますます面白くなってきた。◆ (鎌田、06/24/2014)

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