サイモン&シュスターは契約著者のための新しいサービスツール S&S InkedIn を発表した。すでに提供している Author Portal の付加サービスは、その名の通り、プロフェッショナルSNSの LinkedInを通じたサービスで、販売データ、SNS、出版者情報などを提供する。これもアマゾンが始めたことだが、著者向けの情報サービスは出版社にとって必須のものとなりつつある。
出版社は著者のために働く
「S&S InkedInは、弊社が2011年以来、著者に提供しているAuthor Portalに最近加えられたアイディアの一つです…。まったく新しいルック&フィールは、著者たちがその著書と出版プロセスについての価値ある情報を見つけるのを容易にします。」と同社は述べている。主な機能は以下の通り。
- MARKETPLACE:印刷/デジタル版の販売データ、海賊版監視情報
- CONNECT:著者のためのブログやソーシャルメディア活用ガイド
- AUTHORS ONLY:ウェビナー、ワークショップ、マーケティング情報等
- NEWS & INFO:販促・マーケティングに関するビデオを含む出版社の情報
出版社が提供する著者支援サービスは、読者やファン向けの情報提供を中心としたマーケティング系が多かったが、著者と出版社の関係は本によって一定ではないし、物書きはソーシャルとも限らないので、使ってくれない可能性も少なくない。しかし、最大の理由は2,000万人以上のユーザーを持つアマゾン傘下の Goodreads や著者独自のブログと競合するケースが少なくないことだろう。金をかけても使われないのでは意味がない。LinkedInをベースとした S&S InkedIn は、著者がアマゾンに依存しないように、出版社として必要な情報を、著者の大部分がすでに使っているメディアを通じて流すインタフェースをつけることで提供するものだ。機能的にはすでにAuthor Portalで提供しているものと重複するが、使い慣れたものを用意して、ドアや窓は著者に選択してもらうという発想だ。
著者への情報提供の目的は、著者に自分で販促活動を行ってもらいたいからだ。そのためには著者に知識、方法、手段を提供する必要があるが、様々なプロフェッショナルが利用するLinkedInを使ったチャネルは、Facebookなどとは別の実務的な有効性が期待できる。
S&Sから出版する著者には、もちろん優秀な編集者が付き、十分な宣伝広告費と(書店)営業でフォローするはずで、伝統的は発想では「それで十分」と思われるかも知れないが、そうした常識は通用しない。著者は出版プロジェクトの成功に大きな役割を果たし得るし、一般的にはそれにコミットしたいと考えている。消費者中心主義のアマゾンだが、傘下の出版部門は「著者は第一の顧客である」と宣言している。また自主出版のKDPでも著者サービスでは先行しているが、それは「著者は書くことだけではなく、出版プロジェクトに関心を持っている」という認識に基づくものだ。伝統的出版社が著者のニーズに無関心でいることは不可能だろう。◆(鎌田、06/10/2014)