アマゾンは7月24日、6月30日で終了した第2四半期の決算を発表した。前年同期比23%増の193.4億ドルという、同社としては巡航速度の拡大基調を維持したが、赤字幅は1億2,600万ドルと、同700万ドルから大きく拡大。ウォール街はこの赤字に嫌気して株価をかなり下げた。しかしこの四半期は、同社としてもかなりスケールの大きいプロジェクトを立ち上げている。
スピードこそアマゾン・システムの本質
E-Bookを含むメディア商品の売上は、北米で13%増の24.6億ドル、その他地域では7%増、23.8億ドルと発表されている。内訳を出さないので、それ以上のことは分からない。発表文の中でベゾスCEOが特に名を挙げていた事業は、Fire TVとFreeTime、定額サービスのKindle Unlimited、Webサービス(AWS)、新発売の Fire phones とFirefly+Dynamic Perspectiveである。既存のプラットフォームの延長であるKindle Unlimitedを除き、いずれも投資金額が大きく、回収もますます長くなりそうなものだ。
「ハイライト」では、真っ先にFire phoneが挙げられており、同社にとっての戦略的重要性を示している。この新世代スマートフォンは、Dynamic Perspective と Firefly という2つの新機能を生かす(とくにサードパーティ)アプリ+サービスがその価値を決定する。だから、SDKとクラウドサービスを整備していくのだが、年末商戦までが最初の区切りだろう。クリスマスにFirefly(蛍)が舞い飛ぶようなら、最も難しいスマートフォン+サービス市場に足場が築けたことになるが、これは簡単なことではない。最近、iTunesに対応するAmazon Appstoreの商品数が過去1年間で3倍になり、開発者の売上も増加していることを発表したが、Fire phoneはストアのカタログに支援される一方で、Fireflyという(いまのところ唯一の)独自アプリが重荷となる可能性もある。
まったくの推定だが、アマゾンは売上でほぼ20%増(±2%)、利益はゼロをベースに企業を動かしていると考えられる。創業20年になるが、「利益ではなく売上目標がすべて」という姿勢は一貫している。全事業は長期的な視点から設計されており、もちろん一定期間の後には確実に利益を生み出すが、それは損益計算書に反映される暇もなく投資に回される。いつかは(圧倒的なシェアを確保できたら)利益重視に転換する(あるいは出来る)はず、とアナリストやメディアは決めてかかっているのだが、実際には利益はどれも早期に実現されてきたことが確認されている。今回の決算で、バランスシートの赤字拡大よりも重視したのは、新事業のプラットフォーム整備のスピードであり、ネット/メディアビジネスではそれが事業の成否を左右することを熟知しているからだ。
3Qの決算予想について、2Qレポートは、売上が197~215億ドル(15~26%増)、経常赤字が8.1~4.1億ドルと述べている。赤字幅が3.2~6.4倍で10億ドル近くまでに増加するかも、というのは、ふつうの企業なら問題で、20%の売上目標は無謀とされるだろうが、アマゾンという「システム」は個別事業の集合ではなく、全体が精密に連携して動くようになっている。個別事業のスピードを加減してバランスシートに「利益」を捻出すれば、全体に狂いが出る可能性が高くなるだろう。20%という巡航速度を維持することは、アマゾンというシステムの維持拡大に必須なのではないだろうか。
暑さのせいで脱線してしまうが、システム(組織)が巨大になるほど、成長目標はノルマに近くなる。組織の人間は現実が数字に追いつかなくなると、数字の捏造に血道を上げることになるのは、社会主義はもちろん、今日の「大きな政府」も同じだ。それによって、長期的にはシステムの機能不全から崩壊につながる。アマゾンは規模に比例して複雑化する管理上の問題を克服したのだろうか。もし出来たとすれば、計画経済すら可能になるのかも知れない。そして克服し得ないとしたら、アマゾンもいつかは…。◆(鎌田、07/29/2014)