米国出版社協会(AAP)とシンクタンクのBISGが共同で行っているBookStats レポートの2013年次版 (Vol.4)が発売され、出版社1,600社のデータに基づく卸販売額が明らかになった(→リリース)。総売上はほぼ横ばいの270億ドル(部数は25億9,000万)。商業出版は前年比1%減の146億3,000万ドル。E-Bookの売上は、金額で横ばいの30.6億ドル。部数は10.1%増5.1億冊。
30億ドルのE-Bookは“バブル”ではない
いつものことだが、この数字は米国の出版の実勢のすべてを代表するものではなく、調査対象企業(最新版は約1,600社)に限られる。また卸販売額なので日本の数字とそのまま比較することは出来ない。前年度の数字も修正されていくので、最終的なものというわけでもない。そして定額制など新しいビジネスモデルも登場しているので出版ビジネスの「売上」を統計的に把握するのは一筋縄ではいかなくなってきている。それでも、自主出版(DIY+独立系)を含む、商業出版社の活動の大部分をカバーしていると思われる。
リリースが要約しているところによれば、2012年の超ベストセラー(『ハンガー・ゲームズ』および『フィフティ・シェイズ』)の特殊効果がないため、かなり落ち込むと見られていたので、横ばいという結果はむしろ予想以上のものであったとしている。つまり「一貫した堅実な成長」という評価となった。2012年の数字が2011年の44.2%増となった時に、「これはバブルだ」と言われたのだが、13年の数字が12年と同水準(11年の43%増)となったことは、超ベストセラーを外してみれば、やはり20%台の成長があったと推定してよい。
予想を上回ったのは成年向けノン・フィクション、児童書の健闘が大きい。E-Bookの部数は10%増だが、平均単価が下がったので売上は横ばい。これには超ベストセラーがなくなったこと、自主出版の伸長、大手出版社タイトルの値下げなどの要因が重なったと思われる。部数増は読者増あるいは一人当たり読書量の増加を意味している。これも肯定的に受け止められている。そして、フォーマット別とともに BookStats のもう一つの目玉である、チャネル別動向は、オンライン(E-Book、通販)がリアル書店を上回った。出版物の販売はネットが主流になったということである。
上記で特に注目されるのは、E-Bookの市場が2012年の記録的な数字を維持したことだろう。一部に「米国のE-Bookバブルは終わった」といった伝えられ方をしているが、これは大いに誤解を招く。まずE-Bookの爆発的成長はバブルではなかった(バブルなら消えなければならない)。そして、とくにE-Bookに関しては自主出版を含めるのとそうでないのとでは、市場が別のものになるということだ。それが以下のことの理由になっている。
出版世界の膨張とAAP-BISG提携の終焉
ところで、これより前、AAP(6月19日)とBISG(同23日)はそれぞれリリースを発表し、3年間続いた共同プロジェクトによるBookStatsの発行は、後者に引き継がれることを明らかにした。AAPはBISGへのデータ提供を継続するが、独自のレポートを発行していく。他方BISGは、来年5月発行予定の BookStats Vol.5は、別の形で発行される、と述べた。BISGは今後も出版エコシステム全体に対して実践的な調査・情報を提供していくと述べており、数週間以内に刊行を予定している、Digital Books and the New Subscription Economy、Student Attitudes toward Content in Higher Education (Vol. 4)、Faculty Attitudes toward Content in Higher Education (Vol. 3)のほかに、出版産業の実像を全体的・包括的に捉える新しい調査成果物を開拓していくとしている。
BISGは出版社のほか、メーカー、サプライヤー、流通、小売、印刷、メディア、図書館を含む広義の出版プロフェッショナルによって設立されたシンクタンクで、書籍に限定しないオープンな視野を持っている。BookStats に関してAAPがBISGと訣別したことは、もはや出版がAAP会員を中心とした商業出版社の世界から大きくはみ出してきたことを象徴する出来事だろう。BookStats は、ジャンル、フォーマット、チャネルを軸に三次元的にデータを把握するシステムを整備し、2008-2013年の5年間という急激な転換期の市場を最も正確に描き出すことに成功した。しかし、逆にそのことによって、出版世界の拡大と同時にAAPの相対的位置の縮小を明らかにしてしまった。もはやAAPとしては会員の数字とBookStats との乖離に耐えられなくなったように思われる。◆(鎌田、06/30/2014)