何回か続いた「電子書籍元年」の喧騒を離れた「電子出版EXPO」は、かなり地に足が付いたものとなった。1,000億市場ともなれば当然だが、ガジェットが消え、サービスが前面に出ている。しかし、性格や内容が一目瞭然ではないサービスの展示というのはかなり難しく、うまくいった例とそうでない例が対照的だった。
サービスとしてのE-Book/E-Magの展開へ
衰退が隠せない「ブック」のほうに比べ、紙の本の栄光の幻影から自由な「電子」のほうは(3日間の開催だが)まだ期待が持てる。ボイジャーのRonancerは前号で紹介したが、自社ブースでかなり充実したワークショップを開設し、その中身の濃さは、場違いなほどだった。サービス中心でかなり成功している。オープンなプラットフォームであるということは、ゼロからのスタートを意味する。重要なことは、まずニッチな分野でコミュニティを築くことだろう。Webサービスにおいては、何かの役に立たないものは、何の役にも立たない。逆に、何かの役に立てば、その価値を普遍化する上での技術的障害は少ない。
図書館プラットフォームのOverDriveとの提携して間もないメディアドゥは、さらに定額サービスで最も成功している Scribd との提携を発表した。文書共有サービスから出発し、徐々にストア化してきたこの会社は、本誌でも4年以上前から注目してきた。OverDriveとScribdという、ユニークなビジネスモデルを持つグローバルなサービスが、日本で然るべきパートナーを得たことは、日本市場の今後の展開において重要な意味を持つ。どちらもコア・ビジネスが確立され、ニッチ市場でユーザーベースを確保しているからだ。アマゾンとはまったく異なるアプローチで、だからこそプラットフォームとしての可能性も大きい。
それにしても、膨大なリソースを持つ大手企業から、グローバルとマーケティングというテーマと向き合い、出版をメディアとして飛躍させるテクノロジー/プラットフォーム/サービスの提案が見られなかったのは残念だった。クライアントたる出版社がそうしたニーズを出さないからでもあるが、もはや遠慮すべき段階を超えている。解体的危機に瀕した出版の再建という役割は、誰にでも(もちろん外国企業にも)開かれている。
印刷系のテクニカルサービス企業では、電子雑誌をメインに取上げたところが目立っていたが、「電子」ではなく「ブック」のほうに位置していた大日本印刷のブースで「デジタルマガジンの可能性」についてのセミナーを行っていた。リットーミュージックの『サウンド&レコーディング・マガジン』の事例が紹介されたが、デジタルの必然性という点で、これは説得力のあるケースだ。ある情報では、iPad版に対して数千部のオーダーで定期購読が入り、紙の広告主も戻ってきた、ということらしいが、コンデナストのような外資系は別にして、ビジネスとしてのブレイクスルーが国内雑誌にあれば、広がりは早いと思われる。技術的な難しさはこの3年で大幅に解消し、問題はほぼ出版社の制作プロセスへの統合に集約される。レプリカとしての電子雑誌ではなく、機能/サービスとして展開に期待したい。 ◆(鎌田、07/08/2014)