実感なき「電書市場1,000億」の憂鬱

grpw_upインプレス総合研究所は6月24日、『電子書籍ビジネス調査報告書2014』について概要の発表を行い、予約を開始した。2013年の市場規模を前年比28.3%増の936億円と推計、電子雑誌(77億円)と合わせた市場規模は1,000億円を超えたとしている。ケータイ向けを除けば789億円(84.3%)。60%減となったケータイ向けは211億円で市場の移行は急速に進んでいる。

デジタル比率は10%に乗ったが、なお「嫌われる」

同社が「新プラットフォーム向け」としている電子書籍が国際的に比較可能なE-Bookなので、これを中心に見ていくと、前年度の368億円に対して789億円で114%の増加。2011年(112億円)の7倍で、米国、英国市場の最初の3年間の成長を思わせるものがある。2013年の書籍の総売上は(電書を含まず)84,30億円なので、単純比較は困難ながら、E-Book比率は8.56%、ケータイを含めたデジタル比率は10%とちょうど10%の大台に乗ったことになる。これは軽いことではない。

title les enfants terribleしかし、業界の誰に聞いても、ブームを思わせるものが少しもないのはどうしてなのか。一つはコンテンツ・プロバイダーたる(著者、出版社)、あるいはオンライン書店の大部分に、まだ儲かっている兆しが見えないこと、そして消費者サイドでもデジタル読書/環境の拡大がまだ遅々としていることによると思われる。しかし、市場規模は確実に拡大しているとすれば、誰かは潤っているはずで、儲かっている会社は数字を出さないということなのだろう。

さらに言えば、日本の出版統計は小売販売額で表されるが(米国では出版社の卸販売額)、紙のコンテンツと違って「電子書籍」は出版社が市場を管理しているわけではない。出版社は多数の卸・小売と取引を行っているので市場の全体(売上やマージン)を把握できない構造になっている。「実感なきブーム」の背景だろう。出版社が儲からないままに一時は300億円市場となった電子辞書、同じく電話会社や配信会社だけが儲かったケータイ市場と同じ轍を踏み、紙と同じ流通管理ができないならやりたくない、という姿勢から出版社は抜け出せていない。林智彦さんが最近「なぜ電子書籍は嫌われるのか?」と題した講演を行ったように、1,000億になってもなお嫌われているのだ。出版業界の主流から。

心配なのは紙(を含めた出版本体)のほう

電子雑誌がほとんど動いていないのも気になる。こちらは広告主導なので、メディアとしてのビジネスモデルを再構築するかどうかの問題なのだが、5年後にはこれも550億を売上げることになっている。そもそも、5年後に雑誌本体はどうなっているかが危ぶまれている。2008→2013年に雑誌の実売金額は20.9%も減少して9,280億円となった。下落は書籍より急だが、これまで雑誌は書籍を支えてきたので、このままでは共倒れとなる。そのへんは本レポートの想像力を超えるためか、記述はないようだ。

この国の市場は、成長のための障害がまだ多すぎるし、一つ一つ片づけるにも(たとえばフォーマット問題)時間がかかりすぎている。市場が育たないのはコンテンツが足らないから、といって始めた「緊急」事業で集まったタイトルを見れば、電子書籍の嫌われぶりは、かなり深刻だと納得できる。海賊が、といって導入された「電子出版権」は、たんに著者と契約をしなさいという当然のこと以上ではない。さらに「Kindle消費税」に至っては実現性が無きに等しいというだけでなく、出版界にとって何のメリットもなく自縛(自爆)しか意味しない。

何度も「元年」を迎え、とうに離陸し、2013年には3,000億になると予想されている市場が、コンテンツ・プロバイダーがこんな状態のまま、成長を続けることはあり得ないと考えるのが自然だろう。もしかすると紙の出版が崩壊的事態を迎えた後、版権を買い漁った非出版によって、この3,000億という数字は達成されるのかも知れない。(鎌田、07/01/2014)

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