アマゾンは出版部門を含め、Kindleエコシステムを支える数々のプラットフォームを持つが、さらにクラウドソース・プラットフォームを近日中に立ち上げることを認めた。KDPの著者たちに対して新しいプログラムの発表が近いことを告げたことから明らかになったものだが、情報を総合すると、これが新しいビジネスモデルを意味することは確実なようだ。[全文=♥会員] 期間限定公開
著者に有利な契約内容
The Digital Reader (9/22)のネイト・ホフェルダー氏が報じたところによるとプログラムの骨格は、
- 著者は未発表の完成作品(表紙付)を提出。
- 数日でプレビュー版の冒頭部分を新しいWebサイトに一般公開→評価。
- 読者の推薦の多かった本をアマゾンの出版チームが審査→出版
というもののようだ。同氏がアマゾンの広報に確認したところでは、これはKDPやアマゾン出版とは独立したもので、近日中に発表されるという。さらに、上記のほか契約内容として、以下のようなことが伝わっている。
- 印税の前払い(1,500ドル)を保証し、版権料は純売上の50%
- アマゾンはE-Bookおよびオーディオブックの全言語による世界出版権を取得
- 最初の5年間で印税額が5,000ドルに達しなかった場合、さらに5年間の延長期間を設定。最終的に目標に達しない場合にはアマゾンとの契約を任意で解除できる。
- 版権の返還:どのフォーマットについても、2年後になお未出版の場合、あるいは直近1年間の全印税額が500ドルに達しないタイトルの版権は、申出に基づき返還される。
- 発行日の1週前に、その本を指名した人全員に無料で進呈することで、初期の販促と購入者レビューに役立てる。
- 対象を絞り込むDMや販促に加え、会員向け貸出プログラム(Kindle Owners' Lending Library)および定額制サービス(Kindle Unlimited)に編入し、売上の拡大を図る。
KDPとアマゾン出版の中間にクラウドソースを絡ませる
これまでアマゾンはクラウドソース的プログラムを過去数回試行しているが、今回のものが正式となれば初のプラットフォームとなる。アマゾンの説明で興味深いのは、これが在来型の(つまりアマゾンが発行主体となり、プロの編集・制作スタッフが付く)出版を自前で行うアマゾン出版ブランド(A)ではなく、自主出版のKDP (B)でもない、第3のモデルを開発しようとしていることだ。著者が編集・制作に主導権を持つことはBに近く、アマゾンが発行者となり、前渡金も出すという点では(A)である。1,500ドルを保証することで、著者は最小限の制作費用に充当することができるだろう。
そして注目すべきは、一定期間内に最低限の売上が実現しなかった場合の版権の返還(reversion)条項を契約に含めると見られていることだ。売れなくても(あるいは売る努力をしなくても)出版社が版権を手放さないことは著者と出版社の間の契約トラブルの火種になっている。本来、出版社は最大限の販売努力をすべきだし、売れなかった場合、再度の販売努力を行わない場合には著者に権利を返還すべきだが、実際には保有コストがかからない版権はなるべく長く手許に置いておきたいという心理が働くために、出版社は長い権利保有期間を主張する。アマゾンが著者に有利と思われる条項をこのプログラムに導入したことは、大手出版社への影響も大きいと思われる。むしろそれを狙ったものとも思われる。
クラウドソースのソーシャルなリーディング環境としては、カナダのWattpadが最大会員数を誇る。創業者はアマゾンには売らないと言っているので、たぶんこれがアマゾンのエコシステムに組込まれることはないだろう。アマゾンはクラウドソースのプラットフォームをゼロから立ち上げるかどうかは不明だが、Wattpadの場合は、著者が書き続けながら逐次発表する。商業出版とは独立した環境だ。アマゾンは、完成作の“ゲラ”の一部で評価してもらうやり方で、その点では既存出版社が新刊プロモーションに使うやり方に近い。ペンギン・ランダムハウスが「見つかりやすさ」向上のために提供している試読会員サービスFirst to Readもクラウド書評を販促に利用するものだ。アマゾンはこれらの経験を加味してプラスアルファを持ってくるはずで、かなりのインパクトが予想される。◆(鎌田、09/25/2014)