ハーパーコリンズ社(HC)は9月10日、中国のオンライン書店 JD.comおよび中国図書進出口総公司の協力を得て、多くのベストセラーを含む800店あまりの英文既刊本の販売を行うと発表した、拡大する中国の出版産業に、デジタルでの本格進出を目ざす。8月末の北京国際ブックフェアでは世界の出版大手のトップが参加し、このフロンティアが注目を集めている。
ハーパーコリンズが英語E-Bookの販売開始
欧米にとって「中国」は文字通りの新市場だ。海外出版社にとっては、潜在市場の巨大さに比例して多くの課題を抱えるこの市場は、アプローチ方法をゼロから構築しなければならない。これまではもっぱら、中国側からの翻訳出版の引合いへの対応という消極的な対応だった。問題の一つを解決したのはE-Book/インターネットである。印刷本の翻訳出版では実現不可能な価格が、E-Bookなら提供できる。そしてE-Bookによってデジタル海賊版の統制も容易になる。旧来のマス・メディアに依存しない効果的なマーケティングは言うまでもない。
英文タイトルの販売も、デジタルにおいてはテスト・マーケティングという以上の意味を持つ。一説に3億人とも言われる中国の「英語(学習)人口」は20-30代を中心にインドに匹敵し、潜在「読書層」を1%としても相当な市場であることは間違いない。しかし、2013年の推定で英語読書人口はまだ25万人あまりで、香港と比較できるレベルに達していない。
現に、検閲の問題がないSTM(科学・技術・医学)や経営書では、英語書籍市場も欧米出版社を潤すほどになっている(McGraw Hill、Wiley、Elsevier、Springerなど)。フィクションなどでは世界的ベストセラーを中心に、E-Bookで市場を開拓し、翻訳出版を効率よく進めていくアプローチをとると思われる。HCが組むJD.com(京東商城)は、テンセント傘下のコマース・サイト大手で、HCの印刷書籍の輸入販売を行ってきた実績がある。
中国の出版市場規模は、業態の定義や統計の取り方が欧米や日本とは大きく異なり、単純には比較できないが、公式には2013年に428.9億ドル、14年予測は577.3億ドル、と優に5兆円を超えるとされる。インターネット情報誌が伝えるE-Bookおよび電子新聞の市場も、2012年で57億7,300万元、Webを含めたモバイル出版は486億5,000万元。デジタル出版の総売上は、2013年が2,600億元、2014に3,500億元というかなり途方もない額だ。小売や通信、広告などの売上をカウントすることでこうした数字になったことが推定され、このなかでのコンテンツビジネス(純粋な出版)は一部だろうが、ともかく年率50%を超える成長力を示していることが重要だ。
中国の出版市場の成長は、国内的現象と考えるべきではない。孔子学院などを窓口にした中国コンテンツの積極的輸出はもちろん、中国資本による世界の出版社、版権の買収、買い漁りが次のステージとなるだろう。筆者は視察していないが、北京のブックフェアはそうした志向を読み取ることができると思われる。◆ (鎌田、09/15/2014)
参考文献
- 中国の電子書籍市場調査(PDF)、JETROコンテンツ産業課、06/2011
- China’s Emerging English-language Book Market, By Bill Crawford, 05/08/2013
- China Digital Publishing Industry worth RMB350 Billion By 2014, WhaTech Channel, 07/28/2014
- Licensing in China: A Two-Way Street, By Tom Chalmers, Digital Book World, 08/30/2014