インターネットの世界ではアマゾン (コマース)、アップル、Googleの三者が鼎立しているが、それぞれ背景と得意分野 (コマース/デバイス/広告)を異にしつつ、相互に侵攻を図るという新しい局面を迎えている。とくに2つのAはデバイスとコンテンツで競争が激化しているので、比較・検討してみたい。
8億のiTunesアカウントは機能するか
SocialTimes (05/08)は、オンライン小売販売額 (2003-2013)とモバイル・アカウント (Q207-Q413)の2つのデータで、両者の力関係を比較している。前者(A)はアップルが2010年以降のわずか3年間で、アマゾン(678億ドル)に次ぐ世界第2位のオンライン・リテイラー (180億ドル)に成長したことを示す。言うまでもなく、ほとんどiPhoneとiPadで築き上げたものだ。iTunesで販売するのはコンテンツ(多くはアプリ)なので、デジタルでは両者の優劣は分野ごとに分かれる。例えば、E-Bookではアマゾンが強いが、それは印刷本も販売しているからだ。
後者(B)はアクティブなアカウントの数を比較したもので、ここではiTunesユーザーの8億に対してアマゾンが2億で、ポジションは逆転する。アップルはデバイス中心の会社なので、8億のアカウントが必ずiTunesで活発に買い物をすることを期待してはいない。しかし、アップルのオンライン売上が(アカウントに比べて)2012年以降やや鈍化していることは、獲得したアカウントが必ずしもオンライン顧客に転化していないことを示している。アカウント当たりの売上はかなり急激に低下している。それに対して、アマゾンのアカウントの増加ペースはほとんど直線に近く、アカウント当たりの売上もあまり変わっていない。
以上から言えることは、iTunesはほぼ成長限界を迎えており、アカウント当たりの売上増を必要としていることだ。アップルは、サムスンを除けばスマートフォンから利益を得ている唯一の企業と言っていい存在であり、デバイスの利益が減れば、すぐに市場が騒ぐだろう。アマゾンは利益については誰にも期待させないことを徹底しているので経営に対する風圧はない。利益はなくとも無理な成長とは無縁のアマゾンにとっては、成長限界はまだ先にあり、これからも同じこと(20%の売上増とエコシステムへの投資拡大)を続けていけばいいわけで、直線的な成長がゆがむ可能性はあまりない。アップルはiPadのようなものが容易に生み出せるとは考えていないから、ストアに注力するだろうが、それだけでは心許ないのでIBMとの提携という「自然」な選択をしたのだろう。
アマゾンについて言えば、先に発売したFire phoneが不発だった可能性がある。もちろん、これは最初のKindleのように、実験的なマーケティング・デバイスであった可能性もあり、年末に向けて新しい何かを用意している可能性もあるが、少なくともデバイスとして新規アカウントを獲得するようなものではないのだろう。アップルは急カーブを描き、アマゾンは直線のまま、という関係は変わりそうもない。◆(鎌田、09/02/2014)
参考記事
- Consumers Aren’t Buying Most of Their Digital Content, But They Are Buying eBooks and Music. Why?, By Nate Hoffelder, The Digital Reader, 08/27/2014
- Paying for Digital Content Still Not the Norm in the UK: Majority of UK internet users get digital content for free, eMarketer, 08/27/2014
- Amazon Fire Phone A Resounding Failure, By Jillian Koskie, Good eReader, 08/28/2014