デジタル・メディアの専門メディアであるDigidayに、「アップルNewsstandの格子からの脱出を望む出版社」という気になる記事(10/16)があった。ビジネスが機能しないためで、小出版社によるThe Magazineは廃刊を決めた。大出版社も使い勝手の悪さに苦闘しているという。基本的には膨大なタイトルにアップルのクラウド・サービスが追いつかないという問題だ。
救世主から「制約」に変わる
iPadのデビューが出版界にもたらした2010年の興奮はいまも忘れられない。アマゾンの独占にウンザリしていた書籍出版社は無論だが、Webメディアの浸透で読者と広告主を奪われていた雑誌出版社、新聞社の期待は異常に大きかった。カラーの大画面、斬新なUI/UX、稀代のカリスマが語るタブレットが、苦境にある印刷媒体をすぐにも救ってくれると思われたのだ。
しかし、このデバイスが答の一部であって全部でないことを人々が知るのに、あまり時間はかからなかった。電子新聞や電子雑誌は、完結性を持ったコンテンツである本を売るよりもはるかに複雑であり、印刷物が安定的に安価で供給される限り、容易に代替されるものではないということだ(印刷媒体に持続性が期待できないのは代替可能性とは無関係な問題だ)。ニュースメディアのデジタル化には多くのハードルがあるが、その最も大きなものは読者/消費者とのインタフェースであるストアの問題だ。PC Webではネット・サーフィンも苦にせず読みたい(?)記事にたどり着いた人々が、モバイルでは行動を一変させるからだ。RSSやFlipboardで記事を集め、自分の“雑誌”を無料で読んでいる人はますます増えている。
3年前、売店のように機能するものとして大いに期待されたアップルのNewsstandは、雑誌出版社に大きな失望を与えることになった。原因は(これも一つではないが)アップルがiOS 7から最新号の告知を一方的に止めてしまったことだ。iOS 6では、告知を得たユーザーがホームスクリーンからすぐに最新号をダウンロードできた。また購読者紹介(無料試読)や期間限定割引も認めていない。これでは雑誌ビジネスの根幹であるマーケティングが使えない。もちろん、アップルが行わないサービスを別に用意することはできるが、Newsstandを使う動機はかなり損なわれる。そして1ヵ所で全部できてしまう、というのが売りであったので、ユーザーにとっての価値も下がってしまうわけだ。
アップルにとって、大小無数のニュースメディアへの対応は、クラウド側への負担となり、カイゼンへの動機が働きにくい。そもそも印刷メディアへの意欲が薄れたと見られている。雑誌・新聞の問題は、読者、発行者、広告主とテクノロジー・サービスのコラボレーションによって一歩づつ解決していくしかない。アップルにはイニシアティブを期待したい。◆(鎌田、10/21/2014)
[…] 性能RSSリーダーアプリ(Flipboard等)やキュレーションアプリがライバルとなり、撤退を余儀なくされている出版社も少なくないという結果になっています。 (雑誌を失望させたNewsstand) […]