本誌11月27日号でジェーン・フリードマン氏による「2015年の焦点」を紹介したが、DBWの5つの設問に答えるシリーズでは、さらに注目すべき論者が語っている。今回はデジタル・マーケティングでユニークなサービスを提供する Next Big Sound/Next Big Book の創業者、アレックス・ホワイトCEOの見方を紹介してコメントしてみたい(DBW, 12/15)。
- この1年出版とデジタル化に関して起きた、著者にとって特に重要と思われることは
- 2015年に予想される大きな変化は
- 2015年に出版社が達成すべき最も重要な課題は
- アマゾンのシェアは拡大するか、それともアップル、Kobo、Google、Nookが押し返すか
- まだ注目されていないが、2015年にブレイクしそうな企業は
著者の選択:在来出版か自主出版か
アマゾンとアシェットの紛争は、出版界のイベントとしては近年にないほど人々の注目を惹いた。契約交渉が難航しているくらいに思われたものが、伝統的出版業界の運命、アマゾンの力、E-Bookの価格や自主出版の有効性をめぐる議論にまで膨れ上がったのには驚かされた。報道された内容は個々の企業の利害によって増幅された印象だが、論争の結果浮かび上がったのは、伝統的な出版と自主出版のどちらが著者にとって良いものかということだった。
定額制サービスの帰趨は2015年に
2014年には定額制サービスに関していくつかの進展があり、ビジネスモデルとしての将来について議論された。しかし、十分な数の契約読者が確保されるかどうか、出版社がコンテンツを提供することにメリットを見出すかどうかは、依然として見えてこない。もちろんこの2つの問題は互いに関係している。私はまだ判断できないが、2015年は定額制サービスにとって重要な年になると考えている。私たちの音楽業界での経験から言えば、出版社がいつどのようにライセンスを提供するかという問題は、音楽レーベルと同様に最重要なものとなるだろう。
出版における決定は“データ駆動”に
このテーマに関して私の立場は中立ではないが、間違いなく、出版における決定は“データ駆動”で行われるようになるだろう。出版関係者は異口同音に、より多くのデータが欲しいと言っている。つまり、様々なマーケティング戦術にどのような効果があるか、どんな本に投資すべきか、ソーシャルメディアと販売の関係、印刷広告とデジタル広告の使い分けなどについて知りたがっている。データを使って出版における決定を改善することは、出版社が2015年に達成すべき最重要事だ。
アップルには大きなポテンシャルがある
Kindleのシェアは引続き伸びると考えているが、アップルが追い上げたとしても驚きではない。iBooksが iOS8に組込まれたことで読書環境へのアクセスは大きく改善された。それにマーケティングではこれまでのように価格がすべてではなくなっている。弊社のサービスでも、著者がSNSでアップルから買うように誘導したことでiBooksに傾いた例がある。アップルには大きなポテンシャルがあるということだ。
ディスカバリー問題解決に貢献したBookBub
すでに300万人のユーザーを確保し、380万ドルの資金を調達しているBookBubは未知の存在ではないが、2015年に大きく成長し、次の地平を拓くだろう。Next Big BookではすでにE-Bookの価格の柔軟性について多くのことを目撃しているが、BookBubのニューズレターで取上げられれば、その日のうちに売上げが100倍にもなるのに対して、たんなる割引販売では30倍にしかならない、といった事実がある。「見つけやすさ/見つかりやすさ」問題はマーケティングの最重要テーマだが、BookBubは最も効果的にギャップを埋めることに成功している。
Next Big...のアレックス・ホワイトCEOは、新時代のメディアマーケティングのリーダーと目される存在だが、インテリジェンス解析で鍛えた眼はさすがに鋭いものがある。筆者も注目している BookBubは「日替り特売情報」をカスタマイズして自動配信するサービスだが、ストアの特売より効果が高く、しかも瞬間風速を持続させる力も持っている。筆者は特にアップルの潜在力に注目していることに注目した。それにしても、アップルがこれまでiBookstoreをデフォルトにしなかったのは不可解というしかない。大企業は無駄が多い。◆(鎌田、12/18/2014)