アマゾンのKDP Selectの貸出・定額プログラムから著者にもたらされる1冊当たりの「印税配当」が低下していくにつれて、欧米市場では定額制サービスへの作家たちの懸念が(かなり増幅して)伝えられるようになった。Kindleで地位を築いた人気作家たちの中にも、Selectから離脱する作家が出てきた。
人気作家がUnlimitedから離脱
インディーズ系の人気作家で、2011年の立上げ以来 KDP Select に参加していたJ.A.コンラス氏は、最近のブログでこのプログラムからの離脱を表明した。1月中には 'Kindle Unlimited' (KU)および 'Kindle Owners' Lending Library' (KOLL)からタイトルが消えるという。定額制が販売を前提とした本の価値を毀損するとの声に対して彼は、「それは分からない。売上が落ちた人もいれば、上がった人もいる。自分としてはもっとデータが欲しい」と述べている。コンラスの離脱は、H.M.ウォードに続く人気作家の「Select離れ」を示すもので、波紋は広がっている。逆に言えば、Selectは著者が(3ヵ月単位で)選択可能だということだ。既成出版社との契約のようなものではない。
「パニックを起こす必要はない。」とインディーズ出版者向けのPublishing Service Indexを発表している The Independent Publishing Magazine (TIPM)のミック・ルーニー氏は述べている(TIPM, 12/23)。コンラスでもウォードでもない作家は、販売部数と収入実績とをよくよく見比べた上で決断したほうがいい。そして変化をKOLL/KUに短絡する前に、販売に影響した要因(自身の価格設定や、直近に競合した他の売れ筋本など)を分析してみる必要がある。さらに、KOLL/KUに匹敵するキャンペーン・ツールが得られるかどうかも。要するに、KOLL/KUは誰にもプラスとなるものでもなければ、誰にもマイナスになるものでもないということだ。
KOLL/KUから人気作家が離脱することは、Scribd/Oysterに比べてベストセラー・タイトルが少ないアマゾンにはもちろん不利に働く、またKOLL/KUにあるのは“ゾッキ本”だという風評が立てば、販売額が多い作家から順に離脱することになりかねない。アマゾンはそれを防止するために、人気作家への支払額を(Scribd/Oyster並に)引上げるかもしれない。あるいはまた、しょせん定額制は、暇つぶしに読む本を求める怠惰な読者のためのものに止まり、全体としてのブックビジネスに影響は少ないのかも知れない。たった5ヵ月。事態はまだ流動している。◆ (鎌田、12/25/2014)
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参考記事
- Amazon Unlimited: Where to now, Columbus?, By Mick Rooney, The Independent Publishing Magazine, 12/11/2014
- Is the honeymoon over? KU comes between Amazon and its self-publishers, By Porter Anderson, The Future Book, 12/07/2014
- Kindle Unlimited Under Fire in France, By Nate Hoffelder, The Digital Reader, 12/23/2014
- JA Konrath Decamps From Kindle Unlimited, By Nate Hoffelder, The Digital Reader, 12/21/2014
- Author discontent grows as Kindle Unlimited enters its fifth month, By Nate Hoffelder, The Digital Reader, 12/01/2014