出版再生の10年へ向けて

egyptian book of the dead2014年の日本の出版物売上が、推定で前年比4.8%減の1兆6,000億円と発表された。1997年以来最大の落ち込みで、書籍7,500億、雑誌8,500億。客観的に見て、独立した産業として維持できない水準までのカウントダウンが始まったと考えられる。クラッシュ(絶滅)かハードランディング(適応)か、これからの10年は日本の出版において歴史的なものとなる。

再版はシステムとして機能せず、出版を衰弱させている

今週号では韓国のE-Book市場が急拡大したことをお伝えした。韓国の出版市場は昨年で約32億ドル(現在の為替レートで3,800億円ほど)。日本は7,500億円まで落ちてしまったので、カウント方法にもよるが、人口比では韓国を下回る可能性が高い。しかし、韓国の市場も不振が続いており、E-Bookが危機を打開するかどうかは未知数だ。市場が機能しない価格問題が未解決だからだ。約10年ぶりに再販制度を改訂したが、改訂が書店救済、ネット拡大阻止につながると考えている人はほとんどいない。

chained books2そもそも、これまで書店優遇(というより印刷書籍優先)は書店の救済にはつながらず、出版業界の衰退に直結するばかりだった。成人の読書量は年間9.2冊と発表されているが、減少を続けており、モバイル世代から印刷本離れが進んでいる(日本よりははるかにまし)。11月21日の新制度施行の前には「駆け込み需要」で大幅に伸びた書店の売上は激減している。自由市場において、書店を維持する価格統制制度は、国家補助でもない限り、絶対に成功しなくなったのだ。これは韓国だけの話ではない。

小売市場は販売者と顧客/消費者との対話の場であって、価格と提供方法を主要な言語とする。販売者に言語主体としての自由がなければ自由な対話が出来ない。定価販売では、消費者には買うか買わないかという選択しかないから、愉快ではない。「買い物」の楽しみの主要部分は価格の多様性によるからだ。市場における自由を制限する本の定価販売を当然のことと信じる人々は、本こそ特別なもので、そうした扱いに値すると考えているわけであり、筆者はそう考えな いのだが、ここでそれについて議論するつもりはない。

出版は独立した産業として再構築すべきである

大陸欧州やアジアにおいて、出版物の価格統制が正当化されてきたのは事実である。出版物の文化的・社会的価値を重視する市民社会的イデオロギーと、教育言論文化への介入を当然視し、出版の影響力を確保したい政治権力という、ともに前時代(機械文明と国民国家)の強固な価値観が、両側からこの「非市場的取引」を維持してきた。政府のビジネスへの介入を嫌う米英のほうが少数派であるとも教えられてきた。しかし、それを支える下部構造は命数が尽きている。英語圏におけるデジタル出版のグローバル展開がそのことを証明している。そもそも価格統制は、ひとつの国境内において、

(1) 国家が出版にコミットする(目的はさまざま)
(2) 一部の出版社・書店が市場を管理する
(3) 発行・流通における代替手段が事実上存在しない

といった条件が必要であり、また需要が保証されなければならない。「売り手市場」が持続するということだ。インターネットによる情報通信革命は、これらを無意味にした。その結果起きていることは、出版が一定の規模を持った独立した産業として存立する基盤である書店の減少である。書店が減るのは、版元の価格統制のもとで、十分な利益が確保できなくなったためだ。経済的に成り立たないものはビジネスではなく、産業も構成しない。公的補助がないと成立しない が、公権力が介入したものはもはや本来の出版ではない。米英のように市場主義を認めつつ、非市場的価値を護るための社会的システムを新たに生み出すしかない(図書館はそのための重要なインフラの一部だ)。

phoenix出口は見えている。出版流通は、印刷書籍においてもネットが中心となり、リアル書店は、自由価格、新古書共存、顧客志向な存在として生き残るだろう(大手書店は都市型文化施設の一部として)。問題は、従来の出版の担い手たちが、過去の遺産とともに新しい環境に移行できるか否かである。木版をベースに幕末に頂点に達していた江戸の出版エコシステムは、活字印刷時代に移行できずに消滅した。根こそぎである。移行した版元はいなかった。これは「文明開化」の名による破壊的イノベーションであったし、多大な犠牲を伴った。

120年を経て、同じことを繰り返すべきではないし、その必要もない。デジタルは金属活字と輸送システムより柔軟で融通無碍なものであり、あるべきものをデザインすることができる。本誌は、歴史的な10年において、日本の出版を独立した産業として再構築する方法を考察し、提案していきたいと考えている。 (鎌田、12/30/2014)

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