E-Bookを含むオンライン商品/サービスに課税されるEUの付加価値税は、新年1月1日から(配信国ではなく)消費国の税率が適用されることになるが、アマゾンはKDPプログラムを利用する著者に対して、EU VATのガイドラインを配布した。Kindleストアでの価格表示は国ごとに異なるVAT込みのものとなる。負担はアマゾンではなくEUの消費者、事業者に降りかかる。
英国20%、仏5.5%、独19%…
ガイドラインによれば、1月1日以降の新規出版物に関しては、著者が(EU加盟国ごとに)税込み価格を設定する必要が生じるが、既刊本に関してはアマゾンが、税率表をもとにVAT込み価格表を消費者に提示する。著者はいつでも価格を変更することが出来るが、とくに必要と思わない限り何もする必要はない。仮に英国で税抜き5ポンドで販売されていたタイトルであれば、英国の税率20%が適用されて税込み価格は6ポンドとなる。著者がEUのKindleストアで同じ5ユーロの税抜き価格を設定すると、各国での小売価格は税率によって異なるものとなる。例えばスペインでは6.05ユーロ(21%)、フランスでは5.275ユーロ(5.5%)、ドイツでは5.95ユーロ(19%)といった具合。
著者の関心事は版権料だが、基準となるのは「税抜き小売価格」×販売部数なので、税込み価格が同じであれば、「税抜き小売価格」が国ごとに異なることになり、手取りの版権料も異なってくる。VATのない米ドルで小売価格を10ドルと設定した場合、換算レートが0.8ユーロ/ドルならば、ドイツでの税込み価格は8ユーロとなり、同国の税率19%を除いた税抜き価格は6.72ユーロということになる。フランスの場合はこれが7.58ユーロなので、1冊売っても印税収入は国によってかなりの差がある(→アマゾンのKDPサイト)。
Happy?? New Year for EU Friends
これまでアマゾンのEU本社が立地するルクセンブルクの税率3%が適用されてきたEUの消費者にとって、20%は途方もない高率であり、国によって3倍以上の開きがあるのも腹立たしい。自由貿易圏として成立したはずのEUの存在理由が問われることは間違いない。消費者を罰することでデジタルの進化を遅らせる、この世紀の愚策は、本来の目的(米国のオンライン・サービスへの重い足枷)とは逆に、市場の正常な(つまり経済合理性に基づく)進化を歪め、EU企業のグローバル展開を阻害し、ベンチャー・ビジネスの成長を困難にするだろう。
EUは、この複雑怪奇な課税システムの運用のためにVAT MOSS (Mini One-Stop Shop)というWebポータルを開発し、各国での徴税業務を円滑化しようとしている。VATは「通信/放送/電子サービス」を利用するEUの顧客(個人・法人)に課税される。徴税・納付義務は事業者が追うことになるが、28ヵ国・75種類のVAT税率を正確に徴税機関に納付する業務が企業にとって大きな負担となることは言うまでもない。これまで英国では、年間売上が8万1,000ポンド未満であれば課税は免除されたのだが、この免除規定も廃止された。さらに欧州データ保護法によって、EU顧客の個人情報はEU域内のサーバに保管しなければならない。これはEU域外企業にとって「非関税障壁」として効いてくる。
日本や米国のサイトにEUからオーダーが来たらどうなるか。EUで脱税に問われないためには「申し訳ありませんが、EU居住者にはお売りできません」というしかないだろう。◆(鎌田、12/04/2014)