年末にかけて米英では自主出版をテーマにしたイベントが開催され、デジタルとともに登場し、急速に進化してきたこのビジネスモデルがどう成熟し、どんな課題に直面しているかを知る場を提供した。それは商業出版社のそれと変わらない。ここでは業界の草分けであるマーク・コーカー氏の味方を紹介する。[♥会員向け=年内一般公開]
ニューヨークで11月15日に開催された Self-Publishing Book Expo (SPBE)は今年で5年目を迎えた。著者出版者と出版支援サービス関係者などを中心に200名以上のプロフェッショナルが参加したが、「自主出版市場の10のトレンド」と題した基調講演を行ったのは Smashwordsのマーク・コーカーCEOである。以下、要旨を紹介してコメントしていきたい。
1. E-Bookの隆盛
2007年当時、市場の1%にも満たなかったE-Bookは、現在では35%を占め、いくつかのジャンルではさらに高い。しかし、印刷本も健在であり、E-Bookの成長は鈍化した。E-Bookはこれからも成長するだろうが、その速度はより緩やかになるだろう。
2. 出版ツール/サービス
印刷手段に関しても、出版のための知識・情報に関しても、著者は職業的出版人が利用するのと同じものにアクセスすることが可能となっており、市場に早くたどり着くことが出来る。
3. 著者出版者がベストセラー・ランキングに
USA TodayとNY Timesのベストセラー・ランキングに自主出版タイトルが並ぶことは珍しくないが、これは当たり前のことになるだろう。2020年までにE-Book市場の半分は独立系著者が支配すると予測する。
4. 悪いイメージは解消
6年前、自主出版は失敗した作家の「最後の手段」と見られていた。今日インディーズ作家は、彼らの本がNYの出版社が出版したものに劣ることはないと考えているが、逆に伝統的出版人は嫌悪感を強めており、自主出版本に比べて価格を高く、刊行を遅く、著者の権利を小さくする、といった後ろ向きの対応をすることで自らの首を絞めている。
5. 伝統的出版社はまだ独立系著者の動向を理解していない
コーカー氏はピアソン・ペンギン社が買収した自主出版サービスのAuthor Solutionsを例に、著者の成功を助けるのではなく、ブランドを売りにして著者から収入を得るビジネスモデルを批判した。Author Solutionsはもちろんイベントのスポンサーに入っていないが、これは 'vanity publishing' と呼ばれて自主出版とは区別される。
6. 定額制サービスの勃興
SmashwordsでもOysterとScribdは急速に伸びている。
7. アマゾン vs. アシェット
両社の紛争と新しい合意について、コーカー氏は独自の見解を述べている。著者たちが2つの陣営に分裂して互いに攻撃しあったのは不幸な事態だったが、出版社はアマゾンの戦略を理解する機会を得た。アマゾンは本を日用品と見做しており、消費者に安く供給するためにサプライヤーのマージンを絞っている。出版者はそれに反撥する。アマゾンは独自の出版部門を強めている。彼らはどの本を販促するかを決定し、アマゾンが出版したものを有利にしている。これからは「Kindle独占」の拡大を前面に押し出してくるだろう。これはライバルとしてのアマゾン批判であり、アマゾンが単純に「自社ブランド優先」にするとは思えない。同社の規模では、個別に最適化すれば全体のバランスを大きく崩す可能性があるからだ。
8. グローバリゼーション
昨年SmashwordsからアップルiBookstoreで販売されたコンテンツの売上の45%は米国以外からもたらされた。米国以外の市場が拡大している。
9. 粗悪なコンテンツが押し寄せているがそれは無視される
いくら粗悪な本が増えても、読者は目もくれないので存在しないのと同じだ、とコーカー氏は楽観している。誰にでも出版できることは自主出版の輝かしい側面で、それにより数々の傑作が日の目をみる。出版される良書が増えることの価値は、無視される悪書が増加することの弊害とは比較にならないということだ。
10. 著者にとって環境はより厳しい
E-Bookは絶版にならない、ということには良いことと悪いことがある。市場に残るタイトルが多くなることで競争は激しくなるからだ。人が読む以上のものが供給され続けることになるのは避けられないだろう。これは伝統的出版にとってより苦しい。前渡金は低く、出版社も代理人も減っていく。著者として目立つ存在になることは難しくなる。しかし、未来が困難だとしても、出版にとっては現在ほどよい環境はない、とコーカー氏は言う。市場は世界中に開かれており、読者は最高の本を探し求めているからだ。
再三述べていることだが、自主出版は欧米市場においてすでにブームを超えた存在となり、ビジネスモデルとして定着した。しかし、日本では「自己出版」なる意味不明の訳語が充てられることが多く、いまだ理解も十分ではない。これを非正規出版と考える出版界やメディアが事実上これを無視しており、認識は深まらない。やはりベストセラーが出ないとだめだろう。◆(鎌田、12/04/2014)