マーケティングに挑戦する大出版社

HarperCollins_logoハーパーコリンズ社は、人気タイトル120点を3ドル以下で直販するホリデーシーズン・キャンペーン “Fill Your E-Reader” を開始した。割引販売はめずらしくないが、自社サイト・専用アプリを使った“ダイレクト指向”に注目しないわけにはいかない。そしてアマゾン流のマーケティング発想にも驚かされる。これは大手出版社の新しい戦略の一端だろう。

専用アプリ HC Reader で直販

hc-campaignこのオファーを利用するには、まずHCのアカウント/パスワードを登録し、HCからコンテンツを購入することになる。独自の環境を使うので、Kindle Fireのユーザーは(Amazon App Storeからではなく)HCのサイトからダウンロードしたものを自分でインストールして使用する。各タイトルには「購入されたE-Bookは、iPhone/iPad、AndroidおよびKindle Fireで利用できるHC Readerアプリでお読みいただけます。本アプリは弊社のE-Bookファイル形式を完全にサポートするもので、他のアプリでは問題を生じる可能性があります。」という注意書きがある。KindleやNookなどサードパーティのストアで購入できないものではないが、純正な「読書体験」を謳って直販を利用するよう誘導している。

HCはE-Bookの直販に執念を燃やしている。2013年10月にはアクセンチュア社をパートナーとして、同社の看板であった超ロングセラー「ナルニア」のC.S.ルイスのプラットフォームを立ち上げたが、ルイス作品が米国外の一部の国で50年の版権切れ(→PD)となったためにカナダなどで無償版が登場し、華々しいデビューとはいかなかった。アマゾンを迂回するチャネルを構築するHCの挑戦は、今回のキャンペーンで新段階に入ったと思われる。とはいえ、道は遠い。アマゾンと価格が同じなのに、出版社が意図する「読書体験」を得るために、わざわざ版元の専用DRM付のタイトルを入手するために専用アプリをインストールしたりするだろうか。

持続的成長と10%台半ばに達する高い利益率というデジタルの果実を手にしたものの、欧米の大手出版社はアマゾンの市場支配というかなり重たいものを背負ってしまった。それは彼らがE-Book革命の初期において、出版におけるデジタル化の本質を見誤り、かなり致命的な後手を踏んだためである。21世紀に入ってからの対応は、(1)無視、(2)軽視 (2007-2009)、(3)反撃 (2010-)、という3つの時期に分けられると思うが、書店と紙の本を護ることを第一と考え、E-Bookの価格維持を戦略的な生命線としてしまったのが、デジタル読者をアマゾンの下に追いやった原因だ。

「アマゾン追走」の限界

Narniaデジタルというパラダイムを、もっぱらデバイスから見てマーケティングを軽視したために、iPadによるKindle制圧の夢が消えた2013年にはアマゾンに対抗する武器がない状態に陥った。E-Bookというフルデジタルの市場は(著者を起点とし、消費者を終点とする)コンテンツ流通の外から影響力を与えることは不可能である、という現実に気づいたビッグファイブは、2012年頃からアマゾンの戦略をかなり忠実に模倣するようになった。

アシェットを除いたほかの出版社は「本は日用品のように消費されるものではなく、唯一無二の特別なもの」という教条を捨て、かなりアマゾン的なマーケティングに手を染めている。割引販売はもちろん、ストア・プラットフォーム、SNS、アナリティクスの導入から、自主出版支援、デジタル・ブランドに至るまで、それはほぼすべての領域に及ぶが、アマゾンに脅威を与えるところまではいっていない。当然のことながら、ターゲットとするアマゾンはさらに先を行っているからだ。

アマゾンに勝つには、アマゾンと同水準の能力をより短期にマスターし、同時に21世紀の今日、「出版社」とは何か「ブランドとは何か」という命題に対する独自の回答を用意する必要がある。デジタルなツールはそれに見合って初めて意味を持つものだ。 (鎌田、01/01/2014)

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