2015年の焦点(3):5大トレンド

2015-280x150オライリーでTOCを企画したジョー・ワイカート氏が「2015年に予想されること」と題してトレンドを5点にまとめた(1/5)。「出版はかなり動きの遅いビジネスだ」と見る彼は、むしろ次の進化のステップとなる種子に注目している。さすがにメディア・テクノロジー+サービスの第一級のアナリストだけあり、いずれも重要な指摘だ。

TOC企画者ジョー・ワイカート氏が読むメディア・ビジネスの潮流

Joe WIlkert筆者などは、7年でこれだけデジタルが増えたのだから十分早いと言えるのではないかと思うのだが、彼が変わっていないというのは本とその読み方だ。スマート・デバイスのガラスの下に映されるのは旧態依然たる「ダム・コンテンツ」で、それは本、新聞、雑誌も変わらない。つまり、情報の性質が静的で、使われ方が非対話的。つまりは紙と同じで、デジタルの可能性をほとんど生かしていないということだ。これにはコンテンツ制作者だけではなく、サービスインタフェースを開発し、実験し実用する側の遅さも関係している。

さて、彼が挙げたのは次の5点。

  1. 定額モデルにおけるコンテンツの拡張
  2. コンテンツのスマート化
  3. バンドルとスポンサーで収益源を広げる
  4. ブランドはメディアの枠を超える
  5. コンテンツの再利用が一般化する

1. 定額モデルの拡張

出版社からScribdやOyster、Kindle Unlimitedなどの定額制サービスに提供されるタイトルが増えるという意味ではない。それは考えるまでもない。そうではなく、幾ら読んでも同じ料金の定額制が新聞、雑誌、デジタルメディアといった、現在はペイウォールで課金している媒体に拡大し、トピック別・分野別の定額サービス(プラットフォーム)が発展する。例えば、スポーツ、小説、趣味等々)が考えられる。

筆者も以前、最新情報や基本書籍、スキルの修得を伴う教材などを総合的に必要とする技術者向けコンテンツについて考えたことがある。IT、医学・医療、建築、エンジニアリングなどが含まれる。それらはスポンサーも得やすいので、3とともに考えるべきものだ。しかし日本では「業界」のナワバリが厳密で、誰がオーガナイズするかが難しい。日常のビジネスに問題がなければ行動を起こす同期に乏しく、衰弱した後では知恵も力も湧いてこない。

2. スマートコンテンツ

ワイカート氏によれば、出版社には「リッチコンテンツ」「拡張コンテンツ」に対するアレルギーがあるという。もちろん、ツールも環境も未整備なまま、ワークフローという意識もなく闇雲に制作に取り組んで失敗した苦い経験があるためだ。しかしテレビがカメラの前でのラジオショーで終わらなかったように、スマートコンテンツの制作、流通、消費はしだいに進化している。電子版は印刷版の安っぽい複製以上のものになっていくだろう。

20年以上前に「電子出版」という本を書いた筆者にとっても、拡張コンテンツこそが電子出版、という思いが強いが、「その日」はそろそろ来たという印象を持っている。それはiPadとアプリから、というよりは「HTML5+CSS3+JS」の成熟によるものだ。ただ技術者と出版者の距離はまだ遠い。コンテンツのスマート化はB2B出版を中心にバーティカル(分野別)で先に進むのではないかとも考えている。

3. バンドルとスポンサー

消費者は「デジタルは安いもの」と考えるように習慣づけられてしまった。これはアマゾンのせいばかりではない。デジタルの可用性(例えば共有の容易さ)が封じられている。近い将来にこれが変わる見通しはない。そこで、バンドルやスポンサードによる収益源の拡大が追求されるだろう。これは書籍と雑誌という枠を超えて行われるだろう。可能性は無限、とワイカート氏は言っている。

スポンサー付出版はこれまでにもあった。例えば日本の「ビジネス書」のかなりの部分はゴーストライターの手になる買取ものだ。売上よりは、「印刷物」「書店販売」という社会的信用力を利用したい「著者」やスポンサーからの買取り保証に依存している。さらに「タレント本」なども含めれば、こうした「事業性出版」は出版売上のかなりの部分を占めるかも知れない。出版と広告との障壁はもともと低い。だから、やり方さえ分かれば、日本でも普及は速いだろう。

4. ブランドはメディアを超える

これまでESPNはケーブル/TV、Sports Illustratedは雑誌のブランドだった。どちらも強力な集客力を持つWebサイトを持ち、デジタルコンテンツを出版しているのだが、「出身メディア」のイメージは変わらないし、ブランドのほうも変えようとしない。Bleacher Reportのようなデジタル・ネイティブが突然登場して多くのトラフィックを稼ぐことが出来たのはそうした状況を利用している。特定の媒体に結びついたブランドは将来の発展への障害になる、ということはワイカート氏がニューヨークタイムズについて指摘していたことでもある。

メディアブランドが過去の境界を超えられないのは、組織とその機能を変えられないことに尽きる。深刻な人口減少は分かっていても移民を受け入れられない、といった現象だ。数世代にわたり、一個の生命体として機能してきた「組織」と一体化た「ビジネスプロセス」を組み替えられる経営者は世界中にいくらもいない。結局、「媒体ブランド」は「ブランド」として外部から買収される可能性が最も強い。Kodakのように。

5. コンテンツの再利用

出版の世界で「再利用」はあまり筋のよくない仕掛けのように思われている。デジタルによって、ショート・コンテンツが流通し始め、1冊の本を部分ごとに分売したり、リミックスしたりすることが行われているが、まだ本流ではなくペースも遅い。それによって多くの有用なコンテンツが放置されているが、今後はむしろ最初から再利用を出版企画の中に含めて見るようになるだろう、とワイカート氏は言う。

オリジナルを尊重するためと考えられているが、読者の立場からみて自由に再構成されるべきものは多い。だから「新本」崇拝は業界の独りよがりだった可能性が強い。筆者は、立上げにに失敗したタイトルが、数ヵ月、数年も(あるいは永久に)放置され、打ち捨てられるのは、出版における最大の悪の一つと考えてきた。リユース/リミックスはコンテンツ・マーケティングの本流であり、付加価値こそが重要なのだが、それは最初から考えておくべきなのだ。  (鎌田、01/08/2015)

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