1月にNYで開催されたDigital Book World Conference (DBWC)では、調査会社 Nielsen Bookのジョナサン・ノーウェル社長が同社のBookScanの膨大なデータ(→スライド)を駆使して2014年の米国出版界年間動向を解説した。Book Businessのエレン・ハーヴェイ氏が要領よく5つのポイントにまとめているので、ここに紹介・共有しておきたい(BB、02/10)。
出版社は成功したと言えるか
表の統計をマクロ的に見れば、急速に進んできたデジタル化が一段落し、商業出版社における印刷本の減少も局所的なものに止まったことで、一種の安堵が広がっていたことは本誌でも照会したが、AERが指摘したような「場外」の動きは別としても、ミクロ的に注目すべき変動がいくつも起きている。とくに印刷本にかかわるものだが、とても興味深い。
- 大人向けフィクションの印刷本は、2009年をピークとした前後5年間で傾向が逆転し、約20%の上昇の後、37%の下落を経験した。印刷本の落ち込みはE-Bookの普及のためと考えられる。2014年Q3にはE-Bookの65%をフィクションが占めた。
- しかし、印刷本の落ち込みにもかかわらず、作家の収入は増えた、とノーウェル社長は述べている。匿名の3人の作家の事例が紹介されているが、デジタル以前の2008-2010年に計2,700万冊を販売したのに対して、デジタル後の2012-2014年には印刷本が2,300万冊に減ったもののE-Bookが2,800万冊売れたためである。単純に比較すれば、紙→電子の移行が400万に対して、電子が2,400万の需要を生みだしたことで89%の純増になったことになる。
- ノン・フィクションの印刷本の下落は早くも2007年から始まっていた。以後7年間のの下落率は23%。最悪は旅行ガイド(50%)と実用書(37%)。E-Bookはむしろ遅れているほどなので、下落の理由はインターネットであると考えられた。しかし、料理本が11%、聖書および宗教書は43%も増加しているので、一様に落ちているわけではない。
- 少年少女向けの印刷本は2008-2010年に10%下落したものの、近年は成長しており、2014年は過去最高を記録した。ノン・フィクションもその例外ではなく、社会状況、家族/健康などがリードして28%増。フィクションは8%増。
- 印刷本が生き続けるためには新しいタイプの書店が必要。ノーウェル社長の講演は、オンラインストアでは得られない体験を提供する新しい書店の提言で締めくくられた。体験とは読書への刺激と、読書を通じた愉しみに関するものだ。
書店はE-Book(フィクション)とインターネット(ノン・フィクション)から侵食され、子供に頼っている(37%)のが現状だ。これはよいことだが、デジタルの影響を受けやすい世代だけに不安でもある。しかし、それ以上に気になるのは、ノン・フィクションの長期低落傾向だろう。これについては別の記事で検討する。◆ (鎌田、02/12/2015)
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