アマゾンのソーシャルライティング・プラットフォーム、WriteOnがベータ期間を終了して本格サービスに移行することが発表された。この分野ではWattpadが飛びぬけた存在で、アマゾンの買収ターゲット・ナンバーワンと言われてきたが、WriteOnの始動はこれに勝つ「方法」が見つかったことを意味するのだろうか。
底を見せないソーシャル(コミュニティ)ライティング
ソーシャルライティング・プラットフォーム(以下SWP)はビジネスモデルが確立しないままに拡大・成長を続けている、じつに興味深い分野で、サービスとしてはWattpadのほかに、KBoards、Absolute Writeなどがある。基本的にフィクションが中心でノン・フィクション系はまず目にすることがない。テーマを構造的にサポートする様々な仕掛けが必要になるためだ。
アマゾンがライティング・コミュニティ WriteOnのベータ・プログラムを発表したのは昨年の10月3日だが、少なくともその半年前から準備が進んでいたと言われるから、相当の時間をかけていたことになる。同時期に出版にとってのクラウドソースとしての Kindle Scoutを立ち上げており、こちらも秋には最初のシリーズが出版される。WriteOnとの関係は、おそらくあるはずだが、二枚看板として明示されるかどうかは分からない。
著者と読者を、執筆・創作時点で結びつけるSWPは、21世紀の社会的読書空間として大きなポテンシャルを持っている。Wattpadの成功はそのほんの一端を示したものに過ぎないが、アマゾンが慎重に入り方を模索していたのは、ソーシャルの難しさとともに、既存のエコシステムとの整合性をシミュレーションしていたためと思われる。
消費者と読者は違う
ソーシャルがなぜ難しいか。アマゾンは圧倒的な顧客ベースを持っているのに、なぜSWPには簡単に参入できず、さりとて無視することもできないのか。筆者はそれが「消費者」と「読者」の違いであろうと考えている。幅広いオーディエンスを相手にするGoodReadsと、具体的著者のファンを相手にするWattpadの違い。それは「ソーシャル」の性質の違いであり、後者は著者ー読者の濃密な関係(エンゲージメント)を効果的に支援することが求められる。出来上がった作品を読む読者と、創作過程に間接的に関わりたい読者とはかなり違うし、読書体験も同じではない。もちろんUIも同じではいけないだろう。ソーシャルなコミュニケーションでは「感情」が関わることもある。うまくいけば、重要な著者と読者を確保することになるが、リスクも少なくないだろう。
WriteOnがWattpadと同じレベルのサービスを提供しても、成功の確率は必ずしも高くない。注目は、コミュニティとして確立しているWattpadとどんな差別化をしてくるかだろう。KDPやWorlds、Scoutなど、多様な出版プラットフォームを有するアマゾンが、どう組み合わせてくるかにも注目したい。 ◆ (鎌田、03/12/2015)