1億部のベストセラー作家、E.L.ジェームズを生んだ英国のThe Guardian (3/6)紙が、男性優位の在来出版に対して自主出版は女性作家優位とする調査を紹介している。伝統的な出版社は保守的で、女性が多数を占める市場のニーズに応えていない。自主出版が伸びるのは当然、という趣旨だが、事実として納得できる。問題は変われるかどうかだ。
自主出版が「ガラスの天井」を壊した
ブック・ジャーナリストのアリソン・フラッド氏の記事は数字で始まる。2013年に英国の読者が購入した自主出版(同紙の表現ではDIY出版)本は1,800万冊で前年比79%増 (Nielsen Book)。米国では同じ年に458,000タイトルが自主出版されたが、これは前年比17%増で、5年間で5倍以上になった (Bowker)。自主出版がすでに米英の出版市場において重要な存在となっていることは本誌がお伝えしている通り。これは「例外」ではなく、多くの職業作家にとって「第一選択肢」なのだ。
ほとんどE-Bookとイコールでもある自主出版の重要な特徴は、男性より女性が優位を占めること。最近、FicShelfという出版プラットフォームが、Blurb、Wattpad、CreateSpace、Smashwordsといった主要な自主出版支援サービスについて調査したところ、上位にランクされたタイトルの67%は女性によって書かれていた。在来出版によるタイトルの売上上位100位では男性が61%(アマゾン)。詳細な調査ではないが、市場の実感とは一致する。そもそもフィクションの読者は女性が6割を超えており、結果は自然なものといえよう。
FicShelfのモニク・ドゥアートCEOは、「自主出版で成功を収める女性作家たちはますます増えている」と語り、「そこでは条件が平等だから」と付け加えた。メディア(書評)では男性作家が優位で、Telegraph紙の「誰もが読むべき小説100選」の80%、同じく「2014年のベストブック」の70%、 Guardian紙の「歴史上の傑作小説100選」の85%は男性によるものという。出版界がこの結果を自然に受け止めてきたことは間違いないし、たぶん男性はそう違和感を持たないだろうが、これが「市場の実勢」を反映していないことは知っておくべきだ。
保守的な出版社を嫌う女性作家たち
自主出版作家のアリソン・モートン氏によれば、女性作家とその作品は数の上では増えているが、出版社は男性作家の本を重く見ている、という。出版社の押しが利かない自主出版では、著者個人の努力が結果に結びつくので女性優位になる、という見方だ。FicShelfはノン・フィクションを含めた自主出版ベストセラー227点を調べているが、小説では109点、81%が女性。男性が11点で不明が14点という結果だった。同じく作家のドズ・モリス氏は、出版社には女性作家を恋愛小説や女性小説(chic-lit)などの特定ジャンルに押し込める傾向があり、新しい分野を開拓するような異色作の出版を認めない、と述べている。彼女は最近、他の6人の女性作家と共同で 'Outside the Box: Women Writing Women' というアンソロジーを出版した(=写真)。
既成出版社の保守的な出版方針に飽き足らない女性作家も、自由を求めて自主出版を選択している。この記事では、Orna Ross、Joni Rodgers、Jane Davis、Carol Cooper、Kathleen Jones、Jessica Bellらの名を挙げている。文学賞やベストセラーを経験したこうした作家には、ベテランの編集者、ブックデザイナーらが付き、自主出版でも品質は保証されている。それに固定ファンもいるので、成功の確率は高い。最近の各種調査では、米英の読者が「自主出版」「在来出版」を区別しない傾向を伝えている。
在来出版社は新分野の草分けとなった作家や作品とともに現在の地位を築いたが、どう見てもここ2世代ほどは停滞している。欧米の出版社は、大手の管理職でも女性が過半数を超えたと思われるほど女性の職場だが、安定志向の企業では、これも保守的な方向に作用してきたのかもしれない。自主出版が読者に新鮮な魅力をもたらしているとすれば、自主出版の成長は既成出版社の没落を意味することになるだろう。それを避けるための手を打ってくることは間違いない。デジタル・ファーストの時代は、レディ・ファーストの時代なのだ。◆ (鎌田、03/12/2015)
参考記事
- The Fifty Shades effect: women dominate self-publishing, By Maggie Brown, The Guardian, 11/09/2014