英国の職業作家の収入に関する最新の調査結果が、著作権と版権料支払に関わる機関から発表され、ライターという職業が収入低下により「限界点」に達していることが明らかになった。窮乏化の原因が出版ビジネスの没落でないことは(日本以外では)実証済なので、これはクリエイティブ産業における「労働分配率の低下」を示すことになる。
職業作家の窮乏化と格差拡大
この調査は、Authors’ Licensing & Collecting Society (ALCS)が、ロンドン大学クィーン・メアリ・カレッジと合同で行ったもので、支払実額をもとにした厳密で継時的なデータに定評がある。昨年の表題「言葉の値段はいま幾ら」に続く今年は「著者というビジネス:著者の収入と契約に関する調査」と名付けられた。これは作家という職業分類が絶滅危惧種となっていることを示すものだ。格差拡大は一般社会だけでなく、もともと残業手当などないクリエイティブ・ワークに及ぶ現象である。
「2014年の著者の実収は、10年前の2005年に比べて19%減少している」とレポートは述べている。「フルタイムのライターは同期間に8%減少しており、もし調査対象となった2,454人から、一握りの高所得者を除けば、減少は29%にもなる。つまり法定最低賃金を下回ってしまう。格差は非常に大きく、6万ポンド(約1,080万円)以上を稼ぐ上位10%で職業作家の全収入の58%、10万ポンド(約1,800万円)以上を稼ぐ上位5%で42.3%を占める。下位50%の平均は1万432ポンドで同7%でしかない。しかも職業作家の17%は2013年中の収入がなく、その98%は2010年から2013年まで著書が出版されていた。」
メディア企業は繁栄している
生活の糧を執筆で得ているライターは11.5%で6人に1人に満たず、10年前の40%に比べて激減しており、この傾向が続けば1割を切ることは明らかだ。著者の窮乏化をよそに、出版は繁栄を謳歌している。
ALCSはデジタル時代に入って成長を速めた大手メディアの業績についても言及している。「クリエイティブ産業は繁栄しており、ライターの収入が30%も減少する中で、年間760億ポンドを売上げている」とリチャード・コームズ氏は語っている。BBC (04/20)の文化担当ディレクター、ウィル・ゴンパーツ氏は、その理由を単純に作品点数の増加に帰している。しかし、これは現象的事実でしかない。ALCSのデータは供給過多を示してはいないし、何より出版社の繁栄を説明できない、とTeleRead (04/22)のポール・マッキントッシュ氏は述べている。理由については昨年のレポートで述べられていた。「多くの出版社が著者に要求している契約条件は、公正でもないし維持可能でもない」。
スターを除いた職業ライターの窮乏化は、ポスト・デジタル時代における出版契約の問題点を示している。デジタルによって、出版社は図らずも(著者に対して)勝ち組となってしまった。自主出版は答の一部かも知れないが、ほんの一部でしかない。まともなライターを社会として育ててていくことが出来なければ、いずれ産業として衰退を迎えるだろう。◆ (鎌田、04/23/2015)